アイリッシュウイスキー

アイリッシュウイスキーの原料とは?大麦麦芽・未発芽大麦の役割

アイリッシュウイスキーの原料は穀物・水・酵母。大麦麦芽と未発芽大麦の役割、技術仕様書に基づくモルト・ポットスチル・グレーンなど4区分の原料規定、スコッチとの違いを整理し、Single Pot Stillを選ぶ判断基準も紹介します。

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アイリッシュウイスキーの原料は穀物・水・酵母|「麦芽+未発芽大麦」が定説になった理由

アイリッシュウイスキーの基本原料は穀物・水・酵母の3つです。ジェムソンもこの3つを公表しています。どの穀物をどの比率で使い、どの蒸溜器で蒸溜するかによってカテゴリーが分かれ、香味の骨格も決まります。

最初に押さえる3つの用語

  • 麦芽大麦(モルト):大麦を水に浸して発芽させ、デンプンを糖に変える酵素を活性化させてから乾燥させたもの。乾燥の熱源にピートを使えばスモーキーな麦芽になります
  • 未発芽大麦:発芽させていない生の大麦。発芽で生成されるα-アミラーゼなどの酵素をほとんど持たないため、主に麦芽の酵素で糖化します
  • マッシュビル:仕込みに使う穀物の配合比率

「ノンピート麦芽+未発芽大麦、3回蒸溜」はカテゴリ全体の定義ではない

アイリッシュの原料は「ノンピートの大麦麦芽と未発芽大麦を3回蒸溜する」と説明されることが多くあります。これはシングルポットスチルを中心にした伝統像としては正確です。ただし、カテゴリ全体の定義ではありません。Drinks Irelandが掲載する技術仕様書では、原料の規定がタイプごとに分かれています。

タイプ具体例(メーカー公表)
ポットスチルティーリング・シングルポットスチル:麦芽50%・未発芽大麦50%
モルトブッシュミルズ10年:麦芽100%、3回蒸溜
グレーンティーリング・シングルグレーン:トウモロコシ95%・麦芽5%、連続式蒸溜
ブレンデッドジェムソン:ポットスチル原酒とグレーン原酒、トウモロコシも使用

各タイプの規定は次章の表を参照してください。蒸溜回数・ピート・着色の扱いも次章で整理します。

スコッチとの原料の違いは「未発芽大麦をどこに使うか」

スコッチウイスキー規則(SWR 2009)では、スコッチのシングルモルトは麦芽大麦のみを原料に、単式蒸溜器で蒸溜します。グレーンウイスキーには、麦芽大麦に加えてほかの穀物を使えます。グレーンウイスキーは通常、連続式蒸溜で造られます。アイリッシュも、グレーンに未発芽穀物を使う点は同じです。違いは、未発芽大麦を単式蒸溜器(ポットスチル)の原酒に使う区分を持つ点にあります。糖化を麦芽の酵素で賄う場合、未発芽大麦の比率が上がるほど酵素の余裕は小さくなります。生の大麦は細胞壁成分が分解されにくいため、仕込みや濾過の管理も麦芽100%とは変わります。この原料設計が、ポットスチル原酒の厚い口当たりとスパイシーさの土台として語られています。

未発芽大麦が広まった背景は「通説」として扱う

未発芽大麦を使う理由としては、麦芽に課された税を避けるためだったという説がよく知られています。ただし、これは一つの通説です。客への説明では「そう言われている」と伝えるにとどめるのが無難です。歴史の流れや代表銘柄は『アイリッシュウイスキーの特徴と歴史』で詳しく扱っています。

仕入れ・案内での判断基準

  • 「麦芽+未発芽大麦」の味を伝えたい場合は、ラベルの「Single Pot Still」表記で選びます。レッドブレスト12年(麦芽と未発芽大麦を銅製ポットスチルで3回蒸溜、40%)が基準になります

技術仕様書で見る4区分の原料規定|モルト・ポットスチル・グレーン・ブレンデッド

ウイスキーのイメージ写真

前の章で触れたとおり、技術仕様書はアイリッシュを4区分に分け、主に穀物原料の配合(マッシュビル)で定義しています。ここでは、その規定から読み取れる実務上の境界線を整理します。あわせて、スコッチとの定義の違いと、誤解されやすい「改定」「着色」の扱いをまとめます。

アイリッシュ技術仕様書とスコッチウイスキー規則(SWR 2009)の比較

項目アイリッシュ(技術仕様書)スコッチ(SWR 2009)
麦芽100%の区分モルト:麦芽大麦100%モルト:麦芽大麦と水のみ。シングルモルトは単式蒸溜器で蒸溜
未発芽大麦を必須とする区分ポットスチル:麦芽30%以上・未発芽大麦30%以上、その他穀物は最大5%該当区分なし
グレーン区分の麦芽比率麦芽大麦30%以下。残りは未発芽のトウモロコシ・小麦・大麦など麦芽大麦に、ほかの穀物の全粒を加えてよい。麦芽比率の上限規定はない。通常は連続式蒸溜だが、単式蒸溜器での製造も排除されない
糖化酵素ポットスチル・グレーンは、麦芽の酵素に加えてほかの天然酵素の使用も認められる原料に内在する酵素のみ。外部から酵素を加えることは不可
ブレンデッドポットスチル・モルト・グレーンのうち異なる2種類以上モルトとグレーンなどの組み合わせを区分ごとに定義
蒸溜・熟成地北アイルランドを含むアイルランド島内で蒸溜し、木樽で最低3年熟成スコットランド国内で蒸溜し、オーク樽で最低3年熟成
認められる着色プレーンカラメル色素E150aプレーンカラメル色素E150a

比較すると、アイリッシュの独自性は未発芽大麦を必須にした区分を法的に持つことにあります。もう一つは、グレーンの麦芽比率に30%以下という上限を設けていることです。数字から逆算すると、ポットスチルはその他穀物が最大5%なので、穀物原料の95%以上が麦芽大麦と未発芽大麦になります。ブレンデッドは「異なる2種類以上」が条件なので、グレーンを含まないポットスチル+モルトの組み合わせも定義上は成立します。「ブレンデッド=トウモロコシ入り」と決めつけず、個別のメーカー情報で確認します。

「その他穀物30%へ改定」は参照した版の仕様書と一致しない

ポットスチルに使えるオーツ麦・ライ麦などの上限が30%に引き上げられた、という情報が出回っています。しかし、Drinks Irelandが掲載する技術仕様書(参照した版)で確認できる上限は**5%**です。技術仕様の改定についてはアイルランド政府が公開協議を行っており、どの版が現在発効しているかは、Drinks Irelandの掲載文書だけでは判断できません。客や取引先に説明するときは、次の手順をとります。

  1. アイルランド政府(農業・食料・海洋省)が公開する地理的表示(GI)の資料で、現行の技術仕様書と改定の発効状況を確認する
  2. 現行版の数値が5%のままなら「現行の仕様書では最大5%」と伝え、30%説は未確認として扱う。版を確認できない場合は「参照した版ではその他穀物は最大5%」と版を添えて伝える
  3. ライ麦やオーツ麦を使うポットスチル商品を扱う場合は、メーカーが公表するマッシュビルの比率を確認してから説明する

着色:「アイリッシュは無着色」は誤り

仕様書は、色調調整用にプレーンカラメル色素E150aを認めています。E150aは、樽ごとに異なる色味をロット間でそろえる目的で使われる添加物です。そのため、液色の濃さから熟成年数やシェリー樽比率を推測するのは確実ではありません。個別商品の着色有無は、ラベル表示かメーカーの公表で確認します。公表がない商品は「着色の有無は未公表」と伝えます。

蒸溜回数とピートは区分の定義に含まれない

技術仕様書の区分は、蒸溜回数やピートの有無ではなく、主に穀物原料の配合で定義されています。仕様書はグレーンの2回蒸溜やピート麦芽の使用にも触れており、3回蒸溜やノンピートは多くの銘柄の製法上の選択であって、区分の条件ではありません。たとえばカネマラ シングルモルトは、メーカーが2回蒸溜と公表しているピート麦芽のシングルモルトです。案内での言い換えは最終章で扱います。

なぜ未発芽大麦でオイリーでスパイシーになるのか|原料から蒸溜・樽までの因果

ポットスチル原酒のオイリーさやスパイシーさは、未発芽大麦だけで決まるものではありません。原料、仕込み、蒸溜のカット、樽、ボトリング仕様が順に重なった結果です。どの工程が何を足し、何を削るのかを分けて捉えると、商品説明の精度が上がります。

仕込み:モディフィケーションを経ていない大麦は粘る

麦芽は発芽の過程で、胚乳の細胞壁がβ-グルカナーゼなどの酵素で分解されます。これをモディフィケーション(溶解)と呼びます。未発芽大麦はこの工程を経ていないため、β-グルカンなどの細胞壁成分が多く残ります。その結果、糖化液の粘度が上がり、麦汁の濾過(ロイタリング)が遅くなりやすくなります。デンプンの糖化も麦芽側の酵素に頼るため、未発芽大麦の比率が上がるほど、粉砕の粒度、糖化温度、麦芽との配合の管理が難しくなります。ポットスチル原酒が手間のかかる原酒とされるのは、この仕込み段階の制約があるためです。

香味の傾向:穀物感・スパイス・クリーミーな口当たり

未発芽大麦を含むポットスチル原酒は、青みのある穀物感、胡椒やジンジャーを思わせるスパイシーさ、舌を覆うクリーミーでオイリーな口当たりを持つ傾向があります。ただし、これは銘柄全体に共通する傾向であり、すべての商品に当てはまる性質ではありません。区分ごとの味を試す例としては、ブッシュミルズ10年(モルト区分、麦芽100%、3回蒸溜、シェリー樽とバーボン樽、40%)と、レッドブレスト12年(ポットスチル区分、麦芽と未発芽大麦、3回蒸溜、バーボン樽とシェリー樽、40%)を並べる方法があります。どちらも3回蒸溜・40%ですが、蒸溜所(オールド・ブッシュミルズとミドルトン)、スチルの形状と容量、カット、発酵、シェリー樽とバーボン樽の比率、熟成年数(10年と12年)が異なります。そのため、パレット中盤の厚みやスパイスの差のすべてを原料に帰すことはできません。未発芽大麦の有無は、差を生む要因の一つとして示します。原料差を見せる比較の主軸は、ボトリング仕様がそろった次章のティーリングの3銘柄に置きます。

3回蒸溜:軽さと油脂感を決めるのはミドルカット

3回蒸溜では、最終留分のアルコール度数が2回蒸溜より大きく上がり、重い成分が分離されやすくなります。そのため、軽く滑らかな原酒になりやすくなります。還流(スチル内で蒸気が凝縮して釜に戻る現象)の量は蒸溜回数ではなく、スチルの形状やラインアームの角度、加熱の強さで変わります。また、3回蒸溜は単純に3回直列で蒸溜するとは限らず、初留・再留の留分の一部を次の蒸溜に戻して組み合わせる方式もあります。同じ3回蒸溜でも、蒸溜所ごとに酒質が違うのはこのためです。一方、原料由来の油脂感がどこまで残るかは、製品に使う中留部分(ミドルカット)の幅で変わります。後留側まで広く取ると、沸点の高い脂肪酸エステルなどが入り、口当たりは厚くなります。狭く取ると、クリーンで軽い原酒になります。「3回蒸溜だから軽い」で説明を止めると、レッドブレストのような厚みのあるポットスチル原酒の説明と矛盾します。

グレーン原酒とブレンデッドの構造

グレーン原酒の性格は、使う穀物、蒸溜時の取り出し方、樽によって変わります。区分名だけで「軽く甘い」とは決められません。たとえばティーリング・シングルグレーンについて、メーカーは赤ワイン樽由来の果実味とタンニンを説明しています。ジェムソンのようなブレンデッドでは、ポットスチル原酒とグレーン原酒を合わせて香味の骨格と飲み口を設計しています。ハイボールでのバランスは銘柄ごとに、希釈後の香りと味で判断します。ストレートで原料の個性を伝えたい客には、シングルポットスチルを出し分けます。

ピートと樽:原料由来と樽由来を切り分ける

香味主な由来説明の際の確認点
穀物感・スパイス・オイリーさ未発芽大麦、ミドルカットの幅区分がSingle Pot Stillかどうか
燻香(フェノール類)ピートで乾燥させた麦芽ノンピート麦芽ならほぼ付かない。ティーリング・ブラックピッツのようにピート麦芽を公表した商品のみ燻香を前提に説明する
バニラ・ココナッツ様バーボン樽ファーストフィルほど強く、リフィルでは原料の香りが前に出る
ドライフルーツ様シェリー樽同上。液色はE150aで調整されうるため、色だけで樽を判断しない

加水・冷却濾過・着色が口当たりの判断を変える

冷却濾過は、低温で濁りの原因になる脂肪酸エステルなどを除く工程です。この工程を経ると、外観は安定する一方、口当たりの油脂感も一部失われます。度数が低いほど低温で濁りやすいため、40%前後の商品では冷却濾過されることが多くなります。度数が高いほど成分が溶けた状態を保ちやすく、濁りにくい傾向はあります。ただし、濁りは成分組成、温度、加水量にも左右されるため、46%の非冷却濾過品でも冷却や加水で濁る可能性は残ります。ティーリング・シングルポットスチル(麦芽50%・未発芽大麦50%、46%、非冷却濾過)は、冷却濾過で油脂分を削っていないぶん、油脂感を確かめる例として使えます。

  • 冷却濾過や着色の有無は、メーカーが公表している場合だけ客に伝える。公表がなければ「未公表」と伝える

公表マッシュビルで比べる代表銘柄|原料比率・蒸溜・樽・度数

ウイスキーのイメージ写真

代表銘柄の原料を並べるときは、メーカーが公表している数値だけを使います。マッシュビル(穀物の配合比率)を公表している銘柄と、原料名だけを公表している銘柄があり、その差も仕入れや案内での説明の精度に影響します。下の表では、公表値を確認できなかった項目を空欄にせず「未公表」と明記しています。

銘柄区分原料(公表値)蒸溜樽度数・仕様
ジェムソンブレンデッド麦芽大麦・未発芽大麦のポットスチル原酒+グレーン原酒。トウモロコシも使用。比率は未公表ポットスチル原酒とグレーン原酒を合わせる。3回蒸溜バーボン樽・シェリー樽40%
レッドブレスト12年シングルポットスチル麦芽大麦・未発芽大麦。比率は未公表銅製ポットスチルで3回バーボン樽・シェリー樽40%
ブッシュミルズ10年シングルモルト麦芽大麦100%3回シェリー樽・バーボン樽で10年以上40%
ティーリング・シングルポットスチルシングルポットスチル麦芽大麦50%・未発芽大麦50%3回アメリカン・ヴァージンオーク樽・バーボン樽・シェリー樽46%・非冷却濾過
ティーリング・シングルグレーンシングルグレーントウモロコシ95%・麦芽大麦5%連続式赤ワイン樽46%・非冷却濾過
ティーリング・ブラックピッツシングルモルトピートで乾燥させた麦芽大麦3回バーボン樽・ソーテルヌ樽46%・非冷却濾過
カネマラ シングルモルトシングルモルトピート麦芽を使用。フェノール値(ppm)は未公表2回未公表40%

ティーリングの3銘柄で見る原料差

ティーリングの3本は、いずれも46%・非冷却濾過で出荷されています。ボトリング仕様がそろっているため、加水量や濾過の違いを除いて比べられます。シングルポットスチルは麦芽と未発芽大麦が半々で、ポットスチル区分の下限である各30%を大きく上回ります。シングルグレーンはトウモロコシ95%に対して麦芽は5%だけで、グレーン区分の上限30%よりはるかに低い値です。トウモロコシのデンプンは糊化温度が高いため、加熱して糊化させてから糖化します。麦芽大麦は5%使われ、酵素の一部を担います。ただし、仕様書はグレーンの糖化にほかの天然酵素の使用も認めているため、糖化に使う酵素の内訳は、この配合比率だけでは分かりません。ブラックピッツは麦芽100%ですが、乾燥にピートを使う点でほかの2本と異なります。

ただし、3本は蒸溜方式と樽構成が異なります。シングルグレーンは連続式蒸溜で、ほかの2本は3回蒸溜です。樽は、シングルポットスチルがアメリカン・ヴァージンオーク樽・バーボン樽・シェリー樽、シングルグレーンが赤ワイン樽、ブラックピッツがバーボン樽・ソーテルヌ樽です。ヴァージンオーク由来の木の甘さやスパイス、赤ワイン樽由来の果実味とタンニンのように、樽が穀物感や口当たりの印象を大きく動かすこともあります。そのため、この3本は原料の違いを味わう参考にはなりますが、官能差を原料だけに帰属することはできません。燻香はピート麦芽の使用と結びつけて説明できますが、その強さには蒸溜や熟成も関わります。

ピートを使うアイリッシュの例

ブラックピッツとカネマラ シングルモルトは、「アイリッシュはノンピート」という案内の例外になります。製品の燻香の強さは、2段階に分けて考えます。まず、麦芽のフェノール値(ppm)は、乾燥時にピートの煙をどれだけ当てるかという麦芽の仕様で決まります。次に、そのフェノール類が原酒にどれだけ残るかは、蒸溜回数、スチル内の還流、カットの位置で変わります。フェノール類は留出の後半に多く出てくるため、ミドルカットを早めに切り上げるほど原酒に残る量は減ります。つまり、麦芽の段階で同じppmでも、3回蒸溜や狭いカットでは製品に残る燻香が弱くなります。麦芽のフェノール値と製品の燻香は同じ数値ではなく、熟成中の樽の影響でも感じ方は変わります。ブラックピッツとカネマラはいずれも麦芽のフェノール値を公表していないため、燻香の差を蒸溜回数(3回と2回)だけで説明することはできません。

公表値の使い方:場面別の判断基準

  • 原料の違いを1杯ずつ見せたい場合:ティーリングの3本を同じ量で並べる。度数がそろっているため加水調整は不要。蒸溜方式と樽が異なる点は添えて説明する
  • 比率が未公表の銘柄(ジェムソン、レッドブレスト12年):「麦芽と未発芽大麦を使用」までにとどめ、推測の数値は言わない
  • スモーキーさを避けたい相手への贈答品:表で「ピート麦芽」と記載した2本は外す

ブッシュミルズの飲み方や銘柄の背景は、ブッシュミルズの個別記事で扱っています。この章では、ブッシュミルズ10年を「麦芽100%・3回蒸溜」というモルト区分の基準点として位置づけるにとどめます。

原料表示から選ぶ・薦める・提供する|ラベルの読み方と区分別の飲み方

ラベルの区分表記は、原料を推定するためのいちばん確かな手がかりです。前の章で触れたとおり、区分ごとに穀物原料の規定が異なるため、区分名を読めばマッシュビルの大枠を絞り込めます。ここでは、ラベルの読み方を接客と提供の判断にどうつなげるかを整理します。

ラベルから原料を推定する手順

  1. 区分名を探す。「Single Pot Still」「Single Malt」「Single Grain」「Blended」のどれかで、未発芽大麦を含むかどうかの大枠が決まる。Single Malt なら麦芽100%で、未発芽大麦の特徴は説明に使えない。Single Grain や Blended は、区分名だけでは穀物の構成が分からない
  2. 「Single」の有無を見る。Singleは1つの蒸溜所で造られたことを示し、Blendedは複数区分の原酒を合わせたことを示す
  3. 「Peated」の表記やメーカーの製法情報を確認する。表示がないだけではノンピートと判断しない
  4. 度数と「Non-chill filtered」の表記を見る。非冷却濾過なら油脂感が残りやすく、加水や冷却で濁る可能性があると判断する
  5. マッシュビルの比率はラベルではなくメーカーの公表で確認する。公表がなければ比率には触れない
  6. 蒸溜回数、着色の有無、冷却濾過の有無もメーカーの公表で確認する。公表がなければ「未公表」と伝え、「ノンピート」「無着色」などの断定はメーカーが公表している場合だけにする

客の好み別の薦め方と提供方法

客の求めるもの薦める区分原料上の根拠基本の提供
穀物感・厚み・スパイスSingle Pot Still未発芽大麦由来の粘性とスパイスチューリップ型グラスでストレート、数滴ずつ加水
軽さ・甘さSingle Grain(原料を公表した銘柄)区分名だけでは穀物構成は分からない。ティーリング・シングルグレーンはトウモロコシ95%を公表ハイボール、水割り
バランス・飲みやすさBlendedポットスチル原酒の骨格をグレーン原酒で伸ばす構造ハイボール、水割り、トゥワイスアップ
燻香Single Malt(Peated)ピートで乾燥させた麦芽のフェノール類ストレートで香りを確認してから加水

燻香を求める客には、ティーリング・ブラックピッツやカネマラ シングルモルトのように、ピート麦芽の使用をメーカーが公表しているモルトを出します。「アイリッシュでスモーキーなもの」という注文は、区分ではなくピート麦芽の有無で応えるべき注文です。

外国人客・海外への贈答では英語表記のまま伝える

区分名を日本語に訳すと、かえって意図がずれることがあります。たとえば「ポットスチルの」と訳すと、蒸溜器の種類の話なのか区分の話なのかが曖昧になります。英語の表記のまま伝えれば、相手はラベルと照合できます。

  • 原料の個性を伝える場合:「This is a Single Pot Still — malted and unmalted barley.」
  • 蒸溜回数を伝える場合:「3回蒸溜が多いスタイル」と伝え、「必ず3回蒸溜」とは言わない。「Irish whiskey is often triple-distilled, but not always.」
  • スモーキーさを避けたい相手への贈答:「Non-peated」をメーカーが公表している銘柄を選び、その表記を添える
  • 濁りを事前に伝える場合:「It's Non-chill filtered, so it may turn cloudy with water or ice.」

ポットスチルの加水手順とトゥワイスアップ

ポットスチルは、チューリップ型のテイスティンググラスにストレートで注ぎます。最初のノージングのあとにスポイトで常温の水を2〜3滴加え、グラスを軽く回してから再び香りを取ります。加水でアルコールの刺激が下がると、未発芽大麦由来の青い穀物香やスパイスが前に出てきます。香りの変化を見ながら少しずつ足し、香りが痩せ始めたところで止めます。

トゥワイスアップは、常温の水とウイスキーを1:1で合わせる飲み方です。度数がおよそ半分になり、鼻への刺激が抑えられるため、香りの確認に向きます。40%と46%を比べるときは、それぞれを常温の水で同じ度数(たとえば20%前後)までそろえます。40%なら10mLに水10mL、46%なら10mLに水13mLで、どちらもおよそ20%になります。冷水や氷を使うと香りが閉じるので、確認の目的では常温の水を使います。

グレーンとブレンデッドはハイボールと水割りで甘さを生かす

ハイボールは、ウイスキー1に対してソーダ3〜4を目安にします。グラスと氷を先に冷やしてからウイスキーを注ぎ、ソーダは氷に当てないように静かに加えます。マドラーで縦に1回だけ持ち上げると、炭酸が抜けにくくなります。ハイボールでのバランスは銘柄ごとに、希釈後の香りと味で判断します。

白く濁ったときの説明

46%・非冷却濾過の商品は、加水や氷で度数と温度が下がると、溶けていた脂肪酸エステルなどが析出して白く濁ることがあります。品質不良ではありません。客には「濾過で除かずに残した香味成分が見えている状態」と説明します。常温に戻すと消えることが多いので、ストレートを室温で出す場面では問題になりにくいです。

開栓後の保管と値付け

開栓後の保管方法や、1ショットあたりの原価から売価を決める考え方は、別記事で扱っています。

よくある質問

ウイスキーのイメージ写真

原料の「水」は、香味にどこまで影響しますか?

水は、麦芽の酵素を働かせる糖化、発酵、そしてボトリング前の加水による度数調整に使われます。ただし、香味の骨格を主に決めるのは穀物の配合、酵母、蒸溜のカット、樽です。「この水だからこの味」と言い切れる根拠は乏しいといえます。案内では仕込み水の産地を個性の主因として語らず、区分と樽構成を先に伝えるのが確実です。

酵母や発酵の違いは、原料由来の香味と区別できますか?

酵母は麦汁の糖をアルコールに変え、同時に果実様のエステル類などの香気成分もつくります。一般に、発酵時間を長く取るほどフルーティーさが増す傾向があり、穀物感やスパイスとは別の層として現れます。ただし、酵母の種類や発酵時間を公表している銘柄は限られます。公表がなければ果実香を発酵由来と断定せず、樽由来の可能性も残して説明します。

同じ銘柄でも、買った時期によって味が違うのはなぜですか?

ウイスキーは複数の樽の原酒を合わせて造るため、樽ごとの熟成の差がロット差として現れます。開栓後の酸化による変化と切り分けるには、まず開栓日をボトルに記録しておきます。そのうえで、開栓済みのボトルと同じロットの未開栓品、別ロットの未開栓品を用意し、同じグラス・同じ温度・同じ度数で並べます。同ロットの未開栓品と開栓済みの差は開栓後の変化、未開栓品どうしの差はロット差として扱います。

同じシングルポットスチルの12年と、より長期熟成品やカスクストレングス版を並べるときは、何を見ればよいですか?

まず度数をそろえます。常温の水で、すべてを同じ度数(たとえば20%前後)まで下げます。加える水の量は「ウイスキーの量 ×(度数 ÷ 20 − 1)」で求められ、たとえば58%の商品10mLなら水はおよそ19mLです。度数差が残ったままだと、アルコールの刺激と厚みの差が年数や仕様の差に見えてしまいます。そのうえで、年数とともに増える樽由来の要素と、原酒由来の要素を分けて見ます。樽由来の要素は、バニラや木のスパイス、フィニッシュに残るタンニンの渋み、シェリー樽由来のドライフルーツ様の香りなどです。原酒由来の要素は、青い穀物感、胡椒のようなスパイス、オイリーな口当たりで、長期熟成品ではこれらが樽香の下に残っているか、覆われているかを確かめます。なお、年数違いの商品は樽の比率が異なることもあるため、差のすべてを年数に帰さず、メーカーが公表する樽構成や冷却濾過の有無も確認します。

出典・参考にした情報

この記事で紹介した銘柄

20歳未満の飲酒は法律で禁止されています。 妊娠中・授乳期の飲酒は、胎児・乳児の発育に影響するおそれがあります。 お酒は適量を楽しみ、飲酒運転は絶対におやめください。