高濃度発酵でウイスキー蒸溜の負荷は減るか 海外研究を解説
ウォッシュを約8%から最大14%に高めると蒸溜の排出や残液は減るのか。ヘリオット・ワット大学のモデル試算を解説し、ポットエール約55%・スペントリース30.4%減などの数値、香味や糖化の課題、国内もろみ度数との比較を整理します。
研究の概要:発酵液を高濃度にすると蒸溜の排出と残液が減るという試算
英国スコットランドのHeriot-Watt University(ヘリオット・ワット大学)の研究者らによる論文が、2026年6月11日に刊行されました。題名は「Quantifying the impact of increasing wash strength for Scotch malt whisky production: a modelling study」です(大学の論文記録)。この研究について、大学は同年10月14日に発表しました。それによると、ウォッシュの度数を上げると、モルトウイスキーの蒸溜で生じる排出と残液を減らせる可能性があります。**実際の蒸溜所の設備で確かめた結果ではなく、計算モデルによる試算(モデリング研究)です。**ウォッシュ(wash)は、発酵を終えて蒸溜釜に送る前のもろみを指します。大学はこの考え方を「stronger whisky fermentation」(Heriot-Watt University)と表現しています。
試算の前提:約8%と10~14%を比較
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象 | スコッチのモルトウイスキー製造 |
| 基準 | 一般的なウォッシュ度数として約8%ABV |
| 比較した条件 | 10~14%ABV |
| 試算の条件1:ウォッシュ量を固定 | 同じ量のウォッシュから得るアルコールが増える。生産量が増える一方、再溜釜の負荷も増え、その容量や蒸溜回数が制約になる |
| 試算の条件2:得るアルコール量を固定 | 同じ量のアルコールを造るのに処理するウォッシュの液量が減る |
| 計算範囲 | 発酵と2回の蒸溜(糖化は含まない) |
| 評価の単位 | 純アルコール1リットルあたり(エネルギー・排出) |
| 研究の性格 | 計算モデルによる試算で、実設備での実証は未実施 |
削減の対象は2つ:蒸溜のエネルギー由来の排出と、蒸溜後の残液
| 削減の対象 | 中身 | 示された値 | 発信元・日付 |
|---|---|---|---|
| 蒸溜工程のエネルギー由来の排出 | 計算範囲(発酵と2回の蒸溜)で使うエネルギーと、それに伴う炭素排出 | 14%ABVの条件で、純アルコール1リットルあたりのエネルギー使用量と炭素排出がおよそ16%減 | Harpers Wine & Spirit Trade News、2026-10-15(大学発表の見出しも「最大16%」) |
| ポットエール | 初溜釜に残る液体 | 8%から14%ABVへのモデル上の比較で約55%減 | 論文要旨(2026-06-11刊行)、Heriot-Watt University(2026-10-14) |
| スペントリース | 再溜釜に残る液体 | 同じ比較で30.4%減(大学発表は「30%を超える減少」) | 論文要旨(2026-06-11刊行)、Heriot-Watt University(2026-10-14) |
排出の減少率は「純アルコール1リットルあたり」で示されています。ポットエールとスペントリースの削減率は、論文要旨によると、8%から14%ABVへ上げたモデル上の比較での値です。ポットエールは約55%、スペントリースは30.4%減っています。残液の減り方に差が出る理由は次の章で説明します。
研究側が今後の課題として挙げた点
Harpers Wine & Spirit Trade News(2026-10-15)が伝えた著者らの見解は、次の2点です。
- 高い度数のウォッシュを得るには、糖化(マッシング)の工程を変える必要が生じうる
- 酵母の発酵能力と、香味への影響は今後の研究が必要
発酵条件の変化は香味に響きうるため、それぞれの論点は発酵・蒸溜の章と風味の章で整理します。
日本の読者にとっての意味
この研究は製法についての試算です。この研究で検証した製品・銘柄は発表されておらず、特定の市販品や価格には結びつけられません。研究で最も高い条件とされた14%は、国内メーカーが公表するもろみの度数(次の章の表)をいずれも上回ります。
発酵もろみの度数は実際どれくらいか:モルトとグレーンの公表値

日本洋酒酒造組合の解説によると、モルトウイスキーの原料は麦芽です。麦芽の酵素がデンプンを糖に変え、その糖を酵母がアルコールへ発酵させます。こうしてできた発酵液がもろみ(ウォッシュ)で、ここから先の度数の上昇はすべて蒸溜によるものです。
もろみの度数は「約7%」ひとつではない
もろみの度数は、モルトかグレーンか、またどの資料を見るかで示し方が変わります(数値は下の表を参照)。メーカーの公表値は、発酵期間やもろみの度数を幅で示しています。一方、酒類総合研究所は蒸溜工程を説明する前提として、モルトのもろみを「約7%」と置いています。幅で示すメーカーの公表値と、工程説明のための代表値は、性格の異なる数字です。どちらかが誤りというわけではありません。一律に「約7%」と言い切らず、モルトかグレーンかと、出典をセットで示すのが正確です。
発酵から樽詰めまで、度数はどの工程で上がるか
| 段階 | モルトウイスキー | グレーンウイスキー | 出どころ |
|---|---|---|---|
| 発酵期間 | 2~3日 | 3~4日 | ニッカウヰスキー |
| 発酵もろみ | 7~9%(代表値として約7%) | 8~11%程度(知多は約10%) | ニッカ、酒類総合研究所、サントリー知多蒸溜所 |
| 蒸溜1回目 | 初溜で約25% | —(連続式蒸溜機で一貫して蒸溜) | 酒類総合研究所 |
| 蒸溜後の新酒 | 再溜で約70%(中留をニューポットとして回収) | 90%以上 | 酒類総合研究所、ニッカ |
| 樽詰め | この表の出典には記載なし | 約60%に加水 | ニッカウヰスキー |
モルトの再溜では、留出液を前留(フォアショッツ)・中留・後留(フェインツ)に分けます。新酒として樽に向かうのは中留だけです。前留と後留は捨てずに、次回の再溜でローワイン(初溜で得た液)と合わせて張り込み、再び蒸溜します。ポットスチルによる2回の蒸溜で、もろみの約7%が約25%を経て約70%まで濃縮されます。グレーンは連続式蒸溜機で一気に90%以上まで高めるため、モルトとは度数の到達点も、もろみ由来の成分の残り方も大きく異なります。グレーンの90%以上は、法定の上限(後の章で説明)より低い水準です。
よくある誤解と、説明するときの言い方
- 誤解:発酵だけで40%や70%になる → 約70%は再溜後の新酒、約40%は瓶詰め時に見かける度数です。発酵もろみは、ビールより少し高い1桁台後半から約10%の範囲にとどまります
- 誤解:もろみはどこでも約7% → 公表値はモルトで7~9%、グレーンで8~11%程度と幅があります。知多のように蒸溜所単位で約10%と示す例もあります
- 誤解:グレーンもモルトと同じ流れで濃縮される → グレーンは連続式で90%以上まで上げ、約60%に加水して樽詰めします。初溜・再溜という段階はありません
蒸溜所見学の案内やカウンターで度数を伝えるときは、「どの工程の数値か」を必ず添えます。たとえば「モルトのもろみは7~9%、初溜で約25%、再溜の中留が約70%」のように、段階ごとに区切って伝えます。こうすれば、発酵と蒸溜の役割の違いが聞き手に伝わります。前の章で触れた高濃度発酵の研究は、このうち最初の「もろみ」の段階を引き上げようとする発想です。蒸溜以降の度数の流れを押さえておくと、どこが変わるのかを具体的に捉えられます。
なぜもろみの濃度が蒸溜の負荷を左右するのか
蒸溜はアルコールだけを抜き出す操作ではありません。もろみ全体を加熱し、水より揮発しやすいアルコールを先に気化させる操作です。研究はこの関係をもとに、2つの条件で試算しています。得たい純アルコールの量を固定すると、必要なもろみの液量はもろみの度数に反比例します。度数が高ければ加熱する液量が減り、アルコールを抜いた後に釜に残る液も減ります。逆にウォッシュの量を固定すると、同じ液量からより多くのアルコールが得られます。生産量は増えますが、ローワインを受ける再溜釜の負荷も増え、その容量や蒸溜回数が制約になります。8%から14%への比較でポットエールが約55%減るという見込みは、「残る液」の側を示した数値です。
一方、エネルギー使用量と排出の減少は、14%の条件でおよそ16%にとどまります。液量の削減率とエネルギーの削減率は一致しません。再溜の加熱など、ウォッシュ量に比例しない負荷が残るためと考えられます。
初溜が液量の影響をもっとも受ける理由
モルトの初溜(ウォッシュスチルでの1回目の蒸溜)は、もろみの全量を受け入れて約7%から約25%まで濃縮する段階です。再溜に回るのは初溜で得た液(ローワイン)だけなので、再溜釜が扱う量はもろみより大幅に少なくなります。ポットスチルの工程で最も多くの液を温め、最も多くの残液を出すのは初溜です。そのため、もろみの度数を上げた効果はまず初溜に表れます。ポットエールの減少率がスペントリースより大きく見込まれているのも、この構造と一致します。ポットスチルは1回ごとに張り込んで加熱し、残液を抜く回分式の蒸溜機です。張り込む液の度数が上がれば、同じ生産量に必要な蒸溜の回数や、1回あたりの加熱にも影響が及びます。
濃いもろみには濃い麦汁が要る:「高濃度仕込」との関係
発酵で生じるアルコールの量は、酵母が消費できた糖の量で決まります。ここで分けて考えたいのが、発酵前の麦汁の糖度(比重)と、発酵後のウォッシュのアルコール度数(ABV)です。ウォッシュの度数を上げるには、麦汁の糖度を上げる必要があります。ただし麦汁を濃くしても、酵母が糖を消費しきれなければ、ウォッシュの度数は狙いどおりに上がりません。用語にも注意が要ります。原論文は、基準とした約8%ABVの既存条件をすでに「high gravity fermentation」と呼んでいます。この研究は、約8%の既存条件を基準に、ウォッシュを10~14%へ高める効果を試算したものです。研究の著者らが糖化工程の変更に触れているのは、麦芽に対する仕込み水を減らし、濃い麦汁を取る必要があるからと考えられます。一般に、仕込み水を絞ると麦芽から糖を洗い出しにくくなります。濃度を上げることと、糖を取りこぼさないことの両立が課題になります。
スコッチでは、この課題を解く手段がさらに限られます。Scotch Whisky Regulations 2009(SWR)は、原料穀物に含まれる内在の酵素だけで糖化し、酵母だけを加えて発酵させることを求めています。外部の酵素製剤を加えたり糖を足したりして、糖度を補うことはできません。高濃度化は、麦芽の内在酵素と仕込み水の比率だけで達成する必要があります。
糖度を上げたときに起こりうること
| 論点 | 起こりうること | 確かめたい点 |
|---|---|---|
| 浸透圧 | 糖濃度の高い麦汁で酵母がストレスを受け、発酵の立ち上がりが鈍る | 酵母の投入量と株の選び方 |
| アルコール | 発酵後半に度数が上がるほど酵母の活性が落ちやすい | 狙う度数に耐えられる酵母か |
| 発酵の完了 | 糖が残ったまま発酵が止まり、仕込んだ糖がアルコールにならない | 残糖の量と、各蒸溜所が設定している発酵時間の中で発酵を終えられるか。延ばすなら槽の回転と生産量にどう響くか |
| 香味 | 酵母の代謝や乳酸菌が働く条件が変わる | 著者らも今後の研究課題としている |
純アルコール1リットルあたりで示された削減の見込みは、糖が狙いどおりアルコールに変わってはじめて成り立ちます。発酵が最後まで進まなければ、麦芽あたりのアルコール収量が落ち、削減効果の一部を打ち消します。
高濃度で仕込んで加水する手法との違い
醸造の分野では、高い糖度で仕込んで発酵させ、発酵後に加水して目標の度数に整える手法が一般に知られています。主な狙いは、設備の容量を変えずに多く仕込むことです。今回の研究の主眼はそれとは異なり、濃いウォッシュを薄めずに蒸溜して、加熱する液量を減らすことにあります。発酵後に加水して元の度数に戻せば、蒸溜の負荷は下がりません。資料や見学の説明で「高濃度仕込」という言葉に出会ったら、次の3点を確認すると混同を避けられます。
- 高いのは麦汁の糖度(比重)か、もろみの度数か
- 発酵後に加水しているか、そのまま蒸溜しているか
- 示された数値はモデルによる試算か、実際の操業の値か
風味への影響は未検証:発酵の条件が香味をつくる仕組みから考える

研究の著者らは、風味については「yeast performance and flavour effects still require study」(Harpers Wine & Spirit Trade News、2026-10-15)と述べるにとどめています。酵母の発酵能力と香味への影響は、まだ調べていないという意味です。この研究では、高濃度のウォッシュから得た原酒の香味を実測していません。ここでは、発酵の条件が香味をつくる仕組みから、どこに変化が起こり得るのかを整理します。
香味は酵母だけでなく乳酸菌との共同作業でつくられる
モルトの麦汁は通常、発酵前に煮沸殺菌しません。そのため酵母に加えて、麦芽や発酵槽などに由来する乳酸菌も香味の形成に関わります(酒類総合研究所)。発酵槽にはステンレス製と木製があり、木桶の中の乳酸菌も原酒の香味に影響するとされます。材質による違いとして、木桶は内面に微生物が入り込みやすく、ステンレス槽より洗浄・殺菌による微生物の管理が難しいとされます。ステンレス槽は洗浄・管理しやすいものの、乳酸菌の由来を麦芽だけに限定することはできません。微生物は原料のほか、空気や塵、配管などの製造設備からも入り得ます(ウイスキー発酵に関する研究レビュー)。木桶の菌の構成が仕込みのたびに同じように引き継がれるかどうかは、蒸溜所ごとの測定によってしか判断できません。槽の材質の違いは、どの微生物がどれだけ働けるかの違いとして捉えると分かりやすくなります。
一般に、酵母が糖をアルコールに変える過程では、エステル類(果実や花を思わせる香りの成分)や高級アルコールも生じます。これらの量や比率は、麦汁の組成や温度、酵母の状態によって変わります。発酵の後半に酵母の活動が落ち着くと、乳酸菌が働く余地が広がります。発酵時間の長短が香味の違いとして語られるのは、この段階の長さが変わるためです。
もろみの濃度を上げると、検証が必要になる点
| 要素 | 通常の条件での働き | 濃度を上げたときに確かめたい点 |
|---|---|---|
| 酵母の代謝 | 糖からアルコールとともにエステル類などを生成 | 高い糖濃度・アルコール濃度のもとで、生成される香味成分の量と比率が変わるか |
| 乳酸菌の活動 | 発酵後半を中心に香味形成に関与 | アルコール濃度が高い環境で、働ける菌の種類や時間が変わるか |
| 発酵の時間 | 各蒸溜所が設定した時間で発酵を終える。時間の長さそのものが酒質設計の要素 | 設定した時間の中で発酵を終えられるか。延ばすなら後半の微生物環境と、槽の回転・生産量がどう変わるか |
| 木桶の個性 | 木桶の中の乳酸菌が蒸溜所の個性に関与するとされる | 木桶の菌の構成が高濃度の条件でも同じように働くか |
表の右列は、いずれも研究で答えが出ていない問いです。ビール醸造では、高い比重で仕込むとエステル類の比率が変わることが報告されています。ただし、煮沸しない麦汁で乳酸菌も関わるモルトウイスキーの発酵に、その知見をそのまま当てはめることはできません。
もろみだけで原酒の個性は決まらない
発酵で生じた香味成分が、どれだけニューポットに残るかは蒸溜で決まり直します。再溜では前留・中留・後留を分け、中留だけを新酒として回収します。中留の取り始めと切り上げの位置をどこに置くかで、軽く華やかな成分と重い成分の配分が変わります。再溜釜には、ローワインと前回の前留・後留を混ぜて張り込みます。そのため初溜液の度数が変わると、フェインツと混ぜた張り込み液の度数が変わり、中留の取り始めと切り上げの判断基準が動きます。ウォッシュを濃くしたときにカット位置の見直しが想定されるのは、この構造があるためです。ポットスチルの首の形やラインアームの角度によって還流が変わり、重い成分が釜へ戻る割合も変わります。還流が多いほど軽い酒質になりやすく、銅に触れる時間が長いほど硫黄系の成分が取り除かれやすくなります。カット位置や還流条件でも香味は変わるため、高濃度化の影響を判定するには、蒸溜条件を固定した比較と、条件を調整し直した比較の両方が必要になります。ただし、発酵で生じなかった成分を蒸溜操作で取り戻すことはできません。調整でどこまで補えるかは、この研究では検証されていません。
現時点で言えること、言えないこと
- 言えること:14%ABVの条件で、純アルコール1リットルあたりのエネルギー使用量と炭素排出がおよそ16%減るという試算が出ている
- 言えること:発酵の条件と微生物の環境が香味に関わることは、国内の公的研究機関も説明している
- 言えないこと:高濃度のウォッシュで香味が良くなる、悪くなる、変わらない、のいずれも未検証
- 言えないこと:実設備で試算どおりの削減が得られるかは、今後の検証課題
香味を尋ねられたら、発酵槽の材質や乳酸菌、中留の取り方といった、すでに確立している仕組みの話に戻すと、根拠のある説明ができます。
日本の読者にとっての意味:製品・価格・表示との関係
2026-10-21時点で、この研究は計算モデルによる試算の段階にとどまっています。研究に結びついた製品は発表されておらず、日本での発売も発表されていません。価格への影響についても、大学からも研究者からも発表はありません(2026-10-21時点)。
価格と「似た銘柄」を挙げない理由
蒸溜の負荷が減れば製造コストが下がり、店頭価格も下がるのではないか、と考えるのは自然です。ただし、この研究から設備容量や残液処理への示唆は得られるものの、製造原価全体や店頭価格は試算されていません。大学の発表は残液の処理・輸送費の面での潜在的な利点に触れていますが、それが原価全体をどれだけ動かすかは示していません。瓶1本の値段には、熟成年数、樽の調達、輸送、輸入時の為替、酒税なども効いてきます。そのため、蒸溜の省エネ分がどれだけ価格に反映されるかは、発表された内容からは導けません。
同じ蒸溜所の定番品や、造りの似た銘柄も挙げません。この研究は特定の蒸溜所の操業データではなく、スコッチのモルトウイスキー製造を想定したモデルだからです。対応する蒸溜所も原酒も特定できないため、「この銘柄を飲めば研究の方向性が分かる」といった案内は根拠を欠きます。
もろみを濃くしても酒税法上の区分は変わらない
国税庁の資料(2026年10月確認)によると、日本の酒税法では、所定の穀類を糖化・発酵させたものの蒸留液を、留出時のアルコール分で区分します。95度未満ならウイスキー、95度以上ならスピリッツです。区分の基準になるのは留出時の度数で、もろみの度数ではありません。ウォッシュを約8%から14%に上げても、それだけで区分が動くことはありません。前の章で触れたとおり、ポットスチルの再溜後の新酒は約70%で、95度の線からは大きく離れています。なお、スコッチには日本の95度未満とは別の要件があり、Scotch Whisky Regulations 2009では留出時94.8%未満と定められています。
| 区分 | 根拠の性格 | 時期・出どころ | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 酒税法上の「ウイスキー」 | 法律による区分 | 国税庁(2026年10月確認) | 留出時のアルコール分95度未満が条件のひとつ |
| 「ジャパニーズウイスキー」の表示 | 日本洋酒酒造組合の自主基準 | 2024年4月に本格施行 | 酒税法上の「ウイスキー」と要件が同じではない |
酒税法上ウイスキーに当たることと、「ジャパニーズウイスキー」と表示できることは別の問題です。仮に国内の蒸溜所が将来高濃度発酵を採り入れたとしても、表示の可否は組合の基準の要件に照らして判断されます。もろみの度数から推し量ることはできません。個別の要件は、組合が公表している基準の本文で確認するのが確実です。
店頭やカウンターで尋ねられたときの答え方
基本の言い方は、**「発酵液を濃くすれば蒸溜の負荷が減るという試算であり、実際の製品や風味への影響はまだ分からない」**です。質問の種類ごとに、事実の範囲で次のように答えられます。
- 「この製法のウイスキーは買えますか」→「大学が試算を発表した段階で、この方法で造った製品は出ていません。日本での発売も発表されていません」
- 「環境にいい分、安くなりますか」→「価格への影響は発表されていません。試算の対象はエネルギーと排出、蒸溜後の残液の量です」
- 「味は変わりますか」→「研究者自身が、酵母の働きと香味への影響はこれから調べる課題だとしています」
- 「濃く発酵させたらウイスキーでなくなりますか」→「日本の酒税法の区分は留出時の度数で決まるので、もろみを濃くしただけでは区分は変わりません」
避けたいのは、「エコなウイスキー」「これから安くなる」「スコッチの新しい製法」といった言い方です。いずれも、試算の段階では裏づけのない表現です。数値を添えるなら、「14%の条件で純アルコール1リットルあたりのエネルギーと排出がおよそ16%減る見込み」と、条件と単位まで含めて伝えます。そうすれば、試算の範囲を超えずに説明できます。
よくある質問

グレーンのもろみはすでに約10%あります。それでもモルトの高濃度発酵が研究テーマになるのはなぜですか
公表値では、グレーンのもろみは8~11%程度、知多は約10%で、研究の10~14%の下限と重なります。ただしグレーンは連続式で90%以上まで一気に蒸溜するため、初溜・再溜の残液の構造がそもそも異なります。研究が対象としたのは、ポットスチルで2回蒸溜するモルト製造です。グレーンの数値をもとに、モルトでの実現性や香味を推し量ることはできません。
見出しの「最大16%」は、蒸溜所全体の排出が16%減るという意味ですか
そうではありません。16%は、14%ABVの条件で純アルコール1リットルを得るのに要するエネルギー使用量と、その炭素排出の見込みです。論文の計算範囲は発酵と2回の蒸溜です。蒸溜所全体の排出量や、年間の削減量として受け取らないほうが正確です。
ウォッシュを濃くすると、ニューポットの度数も約70%より高くなりますか
研究はニューポットの度数を示していません。約70%は再溜で回収する中留の値で、取り始めと切り上げの位置によって決まります。ウォッシュの度数が上がれば初溜液の度数も変わるため、カット位置の見直しは想定されます。ただ、結果としてニューポットが何%になるかの数値は発表されていません。
出典・参考にした情報
- hw.ac.uk(確認日 2026-10-21)
- Whisky: Study highlights stronger fermentation could cut emissions by 16%(確認日 2026-10-21)
- 日本洋酒酒造組合(確認日 2026-10-21)
- ニッカウヰスキー(確認日 2026-10-21)
- サントリー知多蒸溜所(確認日 2026-10-21)
- 酒類総合研究所(確認日 2026-10-21)
20歳未満の飲酒は法律で禁止されています。 妊娠中・授乳期の飲酒は、胎児・乳児の発育に影響するおそれがあります。 お酒は適量を楽しみ、飲酒運転は絶対におやめください。