蒸溜所

ノースユイストのピートとカット点 ppmだけで強さは決まらない

ノース・ユイスト蒸溜所のピーテッド原酒Batch 01の公式仕様とStyle 2のカット点試験を整理。50ppmが配合麦芽の値である意味、工程でフェノールが減ること、本留を区切るカット点の基本がわかります。

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ノース・ユイスト蒸溜所が公表したピーテッド原酒の仕様とカット点

ここでいうカット点は、蒸溜中に流れ出る液のうち製品に使う部分を区切る境目の度数のことです。泥炭を掘り出す「ピートカッティング」や、ピーティーカッターという銘柄名とは関係ありません。ポットスチルからは、度数の高い前留(フォアショッツ)、本留(ハート)、度数の低い後留(フェインツ)の順に液が出てきます。英語圏ではヘッズ・テイルズとも呼びます。どのアルコール度数で本留に切り替え、どの度数で止めるか、その境目の度数がカット点です。

製造拠点と樽詰めの開始

蒸溜所の公式サイト(2026年10月時点)によると、製造拠点は名前の由来であるノース・ユイスト島ではなく、ベンベキュラ島のナントン・ステディングスにあります。ウイスキー原酒の樽詰めは2024年末までに始まっています。スピリットスチルにはピュリファイアーが付いています。この装置の働きは次の章で説明します。

Batch 01の公式仕様:ピーテッドとノンピートの比較

項目ピーテッド Batch 01ノンピート Batch 01
原料ユイスト産ベア麦、シュヴァリエ種、50ppmの強くピートを焚いた麦芽ユイスト産ベア麦、マリス・オッター種
発酵時間163時間140〜300時間(一定の設定値ではなく、公表された幅)
カット開始72.7%71.5%
カット終了60%62.5%
開始・終了度数の差12.7ポイント9.0ポイント

表のベア麦は、スコットランド北部や島々で古くから栽培されてきた在来の大麦です。

50ppmは配合したピーテッド麦芽のフェノール値です。 麦芽全体の値でも、ニューメイク(蒸溜直後の無色の原酒)の値でもありません。配合比率は公表されていないため、麦芽全体の値は計算できません。また、糖化・発酵・蒸溜を経るあいだにフェノールは大きく減ります。麦芽のppmだけでは、原酒のスモークの強さは決まりません。

表の数値の意味は、次の章で工程順に説明します。なお、本留の採取量と採取時間は公表されていません。

Style 2の試験と蒸溜担当者の説明

蒸溜所は、ピーテッド原酒のStyle 2で強くピートを焚いた麦芽の配合率を変えて試したと説明しています。ただし配合比率は公表していません。2026年7月22日の蒸溜所の発信では、ピーテッドの酒質にベア麦、シュヴァリエ種、マリス・オッター種の3品種を組み合わせると述べています。

2026年10月21日のThe Whiskey Washの取材では、蒸溜担当のオリヴィア・ギブソン氏が、約3か月のピーテッド生産期間にカット点を変える試験を行ったと語っています。取材では、25ppm、カット約61%の条件で、狙いどおりのオイリーな質感と香味が得られたと担当者が説明しています(配合比率は非公表)。記事は、25ppmが配合前のピーテッド麦芽の値なのか、仕込み全体の値なのかを明示していません。

時系列

  • 2024年末まで:ウイスキー原酒の樽詰めを開始
  • 2026年7月22日:ピーテッドの麦芽配合(3品種)を蒸溜所が発信
  • 2026年8月:スコットランド政府が島内製麦施設の新設に36万2,387.60ポンドの交付を発表(稼働開始日は未確認)
  • 2026年10月21日:カット試験に関する担当者の取材記事が公開

日本で買う・客に説明するときの判断基準

  • 発売状況とGuest Houseの素性は、後の章(日本で買えるか)で整理します。
  • 店頭やバーで説明するときは、公表された事実だけを使います。「50ppmのピーテッド麦芽を配合し、本留は72.7%から60%まで採っています(配合比率は非公表)」と伝えます。完成品のスモークの強さは確認できていません。

なぜカット点でピートの出方が変わるのか:フェノールと蒸溜の仕組み

ウイスキーのイメージ写真

ミドルカットとは、1章で説明したカット点で本留を区切る工程です。一般に、回収した前留と後留は、後続のスピリットランでローホワイン(初溜液)とともに再蒸溜します。ノース・ユイストでの回収と再投入の運用は公表されていません。

ピート由来のフェノール類(フェノール、クレゾール、グアヤコールなど)は沸点が180〜200℃台と高く、本来は揮発しにくい成分です。ただし水蒸気と一緒に運ばれやすい性質があります。釜の中のアルコールが減ると、留出液の度数が下がり、蒸気の水分が増えます。こうした蒸溜の後半に、フェノール類は移りやすいとされます。ただし、成分ごとに留出のしかたも、香りとして感じられる濃さ(閾値)も違います。

採り終わりを下げると何が起きるか

ピーテッドの採り終わりは60%です。ノンピートの62.5%より2.5ポイント低く設定されています。採り終わりを下げると、蒸溜の後半に移る重いピート由来成分を、本留に採り込む可能性があります。ただし、実際にどれだけ採り込まれ、どう感じられるかは、いくつもの条件で変わります。麦芽に含まれるフェノール類の組成、その区間の留出量、還流の量、その後の樽熟成です。この蒸溜所の個別成分の留出データは公表されていません。そのため、何がどれだけ増えたかは断定できません。

一方で、この区間には高級アルコールや脂肪酸エステルなど、重く油っぽい成分も増えます。下げすぎると、段ボールや蒸れた穀物のような後留由来の香りも入ります。採り終わりを決めるときは、残したい成分と後留の雑味の入り方を天秤にかけることになります。

開始・終了度数の差は、ピーテッドが12.7ポイント、ノンピートが9.0ポイントで、3.7ポイント違います。ただし、度数の差は留出量や時間の差に比例しません。採り終わりの1〜2ポイントが香味に与える影響の大きさは、蒸溜速度や仕込み量によって変わります。この蒸溜所の採取量と採取時間は公表されていません。

蒸溜担当者が取材で語った内容は、25ppm・カット約61%の条件で、求めるオイリーな質感と香味が得られたというところまでです。60%という数値にした理由を、これ以上広げて解釈することはできません。

採り始めの1.2ポイント差

採り始めは、ピーテッドが72.7%、ノンピートが71.5%です。留出液の度数は時間とともに下がるため、ピーテッドのほうがより早い段階で本留に切り替えていることになります。前留側の境目は、アセトアルデヒドや酢酸エチルなど沸点の低い軽い成分がどれだけ混ざるかを左右します。一般に、前留を見極めるには度数だけでなく、加水して白濁しないかを確かめるデミスティングテストも使われます。この差が香味にどう出るかについて、蒸溜所は説明していません。

ピュリファイアーと還流

ピュリファイアーは、ラインアームの途中で凝縮した液を釜に戻す装置です。還流(いったん気化した成分が凝縮して釜に戻ること)を増やすので、沸点が高く重い成分を釜に戻す方向に働きます。ただし、原酒のスモークの強さはこの装置だけでは決まりません。麦芽のフェノール量、カット点、スチル形状、ラインアームの角度、蒸溜速度、コンデンサーの種類(シェル&チューブかワームタブか)の組み合わせで決まります。アードベッグのように、ピュリファイアーを備えながら強いピート香を持つ例もあります。ノース・ユイストの運転条件は公表されていません。そのため、当該バッチでフェノール類がどれだけ原酒に残ったかは分かりません。

木製発酵槽と長時間発酵

蒸溜所は木製発酵槽を使い、通常の発酵時間を約168時間としています。ピーテッドのBatch 01は163時間で、通常よりわずかに短い設定です。ノンピートのBatch 01は140〜300時間と公表されています。これは一定の設定値ではなく、公表された幅です。

一般に、酵母によるアルコール発酵が終わった後も槽を空けずに置くと、乳酸菌が増えて酸が生まれます。その酸が、エステル(果実や花を思わせる香りの成分)を蒸溜の段階で生み出す材料になります。木製の槽は菌が定着しやすく、この二次的な変化が起きやすいとされます。ただし、この蒸溜所の原酒の香味に長時間発酵がどう表れるかは公表されていません。

麦芽のppmが原酒で減る理由

工程フェノール類に起きること
製麦ピートの煙で麦芽にフェノール類が付く。ppmはこの段階の測定値
糖化一部が麦汁に移らず、搾りかす(ドラフ)に残る
発酵一部が変化したり、炭酸ガスとともに失われたりする
蒸溜多くが釜の残液に残り、カット点しだいで後留側にも分かれる
熟成樽の中で香りの出方が変わり、スモークの印象は穏やかになっていく

業界で広く知られているとおり、麦芽のppmに対して原酒に残るフェノールはずっと少なくなります。どれだけ残るかは、カット点、還流、発酵条件で蒸溜所ごとに変わります。また、ppmは分析法(測定方法)によっても数値が変わります。

  • ppmが同じでも、採り終わりの度数が低いと、後半に移る重い成分を原酒に採り込む可能性がある(実際の結果は、フェノール類の組成、留出量、還流、熟成で変わる)
  • ピュリファイアーの有無だけでは、スモークの強弱は決まらない(上の「ピュリファイアーと還流」を参照)
  • 客に説明するときは「麦芽のppm」「採り終わりの度数」「還流の多い設備かどうか」の3点を並べて伝える

50ppmと25ppm、二つの数字をどう読むか:ピートの強さを判断する材料

ノース・ユイストのピーテッド原酒について、公表されている数字は二つあります。公式サイトが示すBatch 01の「50ppm」と、2026年10月21日公開のThe Whiskey Washの取材で蒸溜担当者が語った「25ppm」です。1章で触れたとおり、どちらも麦芽の値です。ただし25ppmは、配合前のピーテッド麦芽の値か、仕込み全体の値かが、記事では特定されていません。どちらが製品の最終仕様になるのかも公表されていません。そのため、二つを平均したり、どちらかを「正しい数字」として一つにまとめたりはできません。

項目公式のBatch 01取材で語られた試験
発信元蒸溜所の公式サイトThe Whiskey Wash(2026-10-21)
位置づけ公表されたバッチの仕様約3か月のピーテッド生産期間に、カット点を変えて行った試験の一つ
ピーテッド麦芽のppm50ppm25ppm(測定対象は記事で未特定)
配合比率非公表非公表
カット開始72.7%言及なし
カット終了60%約61%
発酵時間163時間言及なし
結果の説明蒸溜所によるニューメイクの評価:麦の甘さ、ドライベリー、穏やかなピートスモーク(熟成後の製品の香味ではない)25ppm・約61%の条件で、狙ったオイリーな質感と香味を得たと担当者が説明

表のとおり、二つの数字は配合比率も発酵時間も分からないまま並んでいます。ピーテッド麦芽を仕込み全体のどれだけに使ったかによって、麦汁に入るフェノールの総量は変わります。配合比率が分からない以上、二つの条件のどちらがスモークの強い原酒になるかは比べられません。正確に言うなら「50ppmのピーテッド麦芽を配合したBatch 01」と「25ppm・約61%の条件で行った試験」です。

ピートの強さを見積もる6つの確認項目(工程順)

  1. ピーテッド麦芽のppm:出発点の値で、原酒の強さそのものではありません。ppmは総量の目安で、ピートの産地や焚き方によってフェノール類の組成(燻香寄りか、薬品的か)が変わります。ノース・ユイストが使うピートの産地は公表されていません
  2. 配合比率:ノンピート麦芽と混ぜる割合。ノース・ユイストは非公表
  3. 発酵:時間と発酵槽の材質。長時間発酵で増えるエステル(果実のような香りの成分)は、スモークの感じ方に影響する
  4. スチルと還流:ピュリファイアーの有無に加え、スチル形状・コンデンサーの種類・蒸溜速度。これらの組み合わせで還流の量が決まる(2章参照)
  5. カット点:特に採り終わりの度数。低いほど、後半に移る成分を本留に採り込む可能性がある。結果はフェノール類の組成、留出量、還流、熟成で変わる
  6. 樽の種類と熟成年数:樽由来の香りの重なり方と、熟成によるスモークの穏やかさ

ノース・ユイストの場合、公表と非公表の状況は次のとおりです。

  • ①:麦芽のppmは公表、ピートの産地は非公表
  • ②:非公表
  • ③:木製発酵槽の使用と、Batch 01の発酵時間(ピーテッド163時間、ノンピートは140〜300時間の幅)を公表
  • ④:ピュリファイアーの有無のみ公表、運転条件は非公表
  • ⑤:公表
  • ⑥:熟成年数は、発売日が未公表のため決まっていない

分からない項目が残る段階では、強さを断定せず「未公表」と言うのが正確です。

樽の種類で変わるもの

蒸溜所は、リフィルとファーストフィルのバーボン樽を主に使い、少量のシェリー樽も使うと説明しています。ファーストフィルは、スコッチの原酒を初めて詰める樽です。前の中身(バーボン)を出した直後の樽なので、バニラやココナッツを思わせる木由来の成分が多く出ます。リフィルは、スコッチの原酒を一度詰めたあとに再使用する樽です。木の成分の出方が穏やかなので、蒸溜所の原酒の個性が前に出やすくなります。同じピーテッド原酒でも、ファーストフィルでは甘い樽香がスモークに重なり、リフィルではスモークや麦の香りが比較的そのまま残ります。シェリー樽の比率や、どの樽をどの原酒に使うかは公表されていません。

通説「ppmが高いほどスモーキー」との違い

同じ麦芽でも、採り終わりを1ポイント上げ下げしたり、還流を増やしたりすれば、原酒に移るフェノール類の量は変わります。ノース・ユイストの試験は、カット点を動かして酒質を探るという、まさにこの調整の例です。50ppmと25ppmを比べて「Batch 01のほうが2倍スモーキー」とは言えません。配合比率が分からず、ピュリファイアーの運転条件も分からないからです。

日本で選ぶ・説明するときの使い方

  • 自社蒸溜のシングルモルトは未発売のため、国内で比べられるのは他銘柄のみ。ラベルやメーカーの案内で、6項目のうちどれが公表されているかを書き出して並べる
  • ppmしか公表されていない銘柄どうしは、強さの順位をつけず「麦芽の値は○ppm」と伝えるにとどめる
  • 客への説明例:「50ppmの麦芽を一部に使ったバッチと、25ppmで試した例が公表されています。最終仕様と配合比率はまだ公表されていません」

日本で買えるか:発売状況、価格、日本で買える近いタイプの銘柄

ウイスキーのイメージ写真

ノース・ユイスト蒸溜所の自社蒸溜シングルモルトは、まだ熟成中です。公式サイトは発売日を公表していません。2026年10月23日時点で、日本での発売や正規輸入も発表されていません。国内でいくらになるかを判断できる材料も、今のところありません。

スコッチウイスキーと表示するには、スコットランド国内の保税倉庫などで、容量700リットル以下のオーク樽により最低3年熟成させる必要があります(英国政府の案内、スコッチウイスキー規則〈SWR 2009〉)。ただし、これは法律上の下限です。初出荷の時期は、蒸溜所が樽ごとの熟成の進み具合を見て決めます。そのため、樽詰めの開始時期に3年を足しても、発売時期の予測にはなりません。

「Guest House Series No.01」は何の酒か

蒸溜所が現在販売している「Guest House Series No.01」は、ブレンデッドモルトです。ブレンデッドモルトとは、複数の蒸溜所のモルト原酒だけを混ぜた酒を指します。この製品に使われているのは他のスコットランドの蒸溜所の原酒で、ノース・ユイスト蒸溜所で蒸溜した原酒ではありません。公式の仕様は70cl・46%・冷却濾過なし・無着色で、公式価格は46ポンドです。日本での正規の取り扱いは確認できていません。

自社シングルモルトについては、発売時の度数、冷却濾過・着色の有無、受賞歴のいずれも確認できていません。「ノース・ユイストの受賞酒」のような売り文句を見かけたら、どの製品の話なのかを確かめてください。

日本で買える、比べるための銘柄

下の表の銘柄は、ノース・ユイストの代わりになる酒ではありません。「島の蒸溜所」「ピーテッド」「若い蒸溜所」といった観点で比べるための参考です。カット点を公表している銘柄は少ないため、表では公表の有無を問わず、設備や立地で比べる軸を示しています。ppmなどの数値は、確認できたものが無いため載せていません。香味については、各メーカーの公式案内で確かめてください。

銘柄比べる観点比べるときの見どころ価格の目安
キルホーマン マキヤーベイアイラ島・ピーテッド・若い蒸溜所比較的新しい農場型の蒸溜所の主力品。年数表示の無い製品なので、新しい蒸溜所が若い原酒をどう製品にするかを見る例になる6,058円前後(2026年10月23日時点)
カリラ 12年アイラ島・ピーテッドブレンデッド用原酒の主要な供給元でもある大規模蒸溜所。シングルモルトとブレンド用原酒の関係を考える材料になる5,980円前後(2026年10月23日時点)
アードベッグ 10年アイラ島・ピーテッドスピリットスチルにピュリファイアーを備える点がノース・ユイストと共通。それでも強いピート香で知られ、還流装置だけでスモークの強さが決まらないことを示す例になる4,500円前後(2026年10月23日時点)
アラン 10年島の蒸溜所・ノンピートが主力島の蒸溜所がピートを焚かない麦芽で造る定番品。ノース・ユイストのノンピートBatch 01と比べる軸になる4,760円前後(2026年10月23日時点)
オーバン 14年西ハイランドの港町(島ではない)小型のスチルを持つ沿岸の蒸溜所。「海辺の酒=ピーテッド」とは限らないことを示す例7,535円前後(2026年10月23日時点)

贈り物・土産・店頭説明での判断基準

  • 蒸溜所の自社原酒を贈りたい場合:熟成済みの自社シングルモルトは、まだ発売されていません。英国の公式ショップには、自社製ニューメイクのセット「New Make Spirit & Glass Set」(ピーテッド/ノンピート、10cl・63.5%、グラス付き)が掲載されています。ただし、ニューメイクは熟成前の原酒で、ウイスキーではありません。また、日本への配送が可能か、国内で入手できるかは確認できていません。購入を考えるなら、公式ショップで配送条件を確かめてください
  • 蒸溜所を応援する土産にしたい場合:Guest Houseは他の蒸溜所の原酒によるブレンデッドモルトだと理解したうえで選びます。渡すときにも、そのことを一言添えます
  • アイラ島のピーテッドを贈りたい場合:表のピーテッド3本から選びます。強さはppmではなく、メーカーの案内にある香味の表現で比べます
  • ピートが苦手な人に贈る場合:アラン 10年やオーバン 14年のように、島や沿岸の蒸溜所でもピートを前面に出さない銘柄を選びます
  • 酒販店・バーで説明する場合:「自社シングルモルトは熟成中で発売日は未定、日本での正規輸入は未発表」と伝えます。表の銘柄は「似た酒」ではなく「比べる軸が近い酒」として紹介します

酒販店・バーでの伝え方と、よくある疑問

接客で誤解が生まれやすいのは、数字の意味と商品の素性です。次の言い方を基準にすると、前の章までの内容を短く正確に伝えられます。

接客での言い方の例

避けたい言い方正確な言い方
「50ppmのウイスキーです」「50ppmのピーテッド麦芽を、配合した麦芽の一部に使っています」
「カットが強いからスモーキーです」「カット点は、本留を採り始める度数と採り終える度数です。ピーテッドは72.7%から60%までを本留にしています」
「ノース・ユイストのウイスキーです」(Guest Houseを指して)「Guest Houseは、他の蒸溜所の原酒を使ったブレンデッドモルトです」
「新しいシングルモルトが出ています」「自社のシングルモルトは熟成中で、まだ発売されていません。発売日も公表されていません」

英語で説明するときの用語

英語日本語意味
cut pointカット点本留を採り始める度数と、採り終える度数(境目の度数)
heartハート(本留)樽詰めに回す中間の留分
peated maltピーテッド麦芽泥炭の煙で乾燥させた麦芽
ppmppm(フェノール値)麦芽に含まれるフェノール類の濃度(百万分率)
purifierピュリファイアー凝縮した液の一部を釜に戻す還流装置(働きは2章参照)

英語では「The 50 ppm refers to the peated malt in the recipe, not the finished spirit.」と添えると、数字の誤解を防げます。

ppmに頼らずピートの出方を比べる手順(バー向け)

  1. 前の章の比較銘柄から、ピーテッドのキルホーマン マキヤーベイ、カリラ 12年、アードベッグ 10年を選び、対照にアラン 10年を加える
  2. 同じ形のチューリップ型グラスに、計量カップかピペットで同じ量(例:各10ml)を注ぐ。ラベルの度数を横に書き出す
  3. 嗅ぐ順番は、ノンピートのアランを先にし、ピーテッドを後にする。ピーテッドを先に嗅ぐと、嗅覚がスモークに慣れてしまうため
  4. 1段階目はストレートで香りを取る。注いでから香りを取るまでの時間は店で決め(例:毎回同じ分数)、その値を記録する
  5. 2段階目は、ピペットか計量カップで、注いだ量と同量程度の常温の軟水を加える(トゥワイスアップ。度数はおおむね半分になる)。軽く回し、1段階目と同じ時間を置いてから、同じ順番で香りを取る
  6. 銘柄ごとに、加水前後でスモーク系の香りが前に出たか引いたかを記録する。公表されている製法情報(カット点、還流装置、樽)は横に併記してよいが、香りの差の原因として結びつけない
  7. 客に見せるときは強さの順位をつけず、「加水でどう動いたか」を中心に説明する

加水で度数が下がると、香り成分の揮発のしかたが変わります。ただし、銘柄ごとに元の度数、熟成年数、樽、瓶詰め条件が違うため、同じ割合で加水しても到達する度数はそろいません。この手順の目的は、各銘柄の加水前後の香味変化を記録することです。差の原因をカット点や還流装置など、特定の製法に結びつけることはできません。

よくある疑問

Q. ベア麦とはどんな品種ですか。 スコットランド北部や島々で古くから栽培されてきた在来の六条大麦です。この蒸溜所では、ユイスト産のベア麦をピーテッドとノンピートの両方に使っています。

Q. ピーテッドのボトルは開栓後どう保管すればよいですか。 一般的には、直射日光と温度変化を避け、涼しい場所で立てて保管します。寝かせると、度数の高い液がコルクに長く触れて傷めることがあるためです。残量が減ると瓶の中の空気が増え、香りの変化が進みやすくなります。半分を切ったら、小さな瓶に移して空気に触れる量を減らすのが一般的な手順です。

Q. 接客で「スモーキー」と「ピーティー」の違いを聞かれたら、どう答えればよいですか。 ピーティーは、ピート(泥炭)を焚いた麦芽に由来する香りを指します。燻香、薬品のような香り、土っぽさなどです。スモーキーは煙を思わせる香り全般を指す、より広い言葉です。樽の内側を焦がした(チャーした)ことによる焦げた香りにも使われます。そのため、ノンピートのウイスキーでもスモーキーと感じることがあります。

よくある質問

ウイスキーのイメージ写真

ピーテッドとノンピートを同じ設備で造ると、スモークがノンピート原酒に移りませんか。

移ることがあります。回収した前留と後留は、通常、後続のスピリットランでローホワインとともに再蒸溜します。そのためフェノール類が工程内を循環し、切り替え直後のノンピート原酒に残ることがあるからです。そこで、ピーテッドを一定期間まとめて仕込む方法が一般的です。ノース・ユイストでも約3か月のピーテッド生産期間がありましたが、切り替え時に後留をどう扱ったかは公表されていません。

出典・参考にした情報

この記事で紹介した銘柄

20歳未満の飲酒は法律で禁止されています。 妊娠中・授乳期の飲酒は、胎児・乳児の発育に影響するおそれがあります。 お酒は適量を楽しみ、飲酒運転は絶対におやめください。