蒸溜所

マスターブレンダーとは?役割とチーフブレンダーとの違い

マスターブレンダーは原酒の選定と配合を担い、樽ごとに異なる熟成の原酒から同じ香味を保ち続ける責任者。年数表示品の原酒仕込みや品質評価も担う。チーフブレンダーとの違い、サントリー・ニッカでの呼称や役割分担の実例も紹介する。

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マスターブレンダーとは:製品の香味を守り続ける最終責任者

マスターブレンダーとは、原酒の選定と配合を担い、製品の香味に責任を持つ役割である。スコッチウイスキー協会の職業解説は、異なる樽のシングルモルトとグレーンを合わせたブレンデッドウイスキーについて、その香味をロット間で保つ責任を挙げている。さらに、原酒の配合だけでなく、製造と熟成の工程の監督、コスト管理、関係部署との協働にも触れている。要点は、香味を保ち続けることにある。同じ蒸溜所で同じ時期に蒸留した原酒でも、熟成の進み方は樽ごとに変わる。樽の種類、ファーストフィル(前歴のある樽にスコッチを初めて詰めるもの)かリフィル(スコッチの熟成に再使用する樽)か、倉庫内の置き場所によって差が出るからだ。材料が毎回違うなかで、毎回同じ味を組み上げることがこの職務の中心である。

この仕事はブレンデッドウイスキーに限らない。シングルモルトも一樽だけの酒とは限らず、同じ蒸溜所の複数のモルト原酒を合わせて製品にできる。そのため、シングルモルトの味をそろえるのもブレンダーの仕事になる。

職務の範囲

  • ブレンドの配合:どの原酒をどの比率で合わせるかを決める。手元にある原酒の状態はロットごとに違うため、配合は固定ではない。同じ香味に着地するよう、その都度組み替える
  • 樽と熟成年数の管理:原酒を試飲して熟成の状態を見極め、将来必要になる原酒について製造現場に指示を出す。年数表示のある製品は、その年数より先の需要を見込んで原酒を仕込み、樽を選んでおかなければ成り立たない
  • 品質評価:ノージング(香りの確認)とテイスティングで、原酒と製品が基準どおりかを判定する
  • 新製品の開発:いまある在庫と今後の熟成の見込みから、新しい香味を設計する

蒸留で原酒をつくるのはディスティラーで、異なる原酒を組み合わせて製品にするのがブレンダーである。ただし、規模や体制によっては一人が両方を兼ねる場合もある。

組織内の位置づけと呼称

複数のブレンダーを抱える企業では責任者を置く。ただし、その呼称、権限、上下関係は会社ごとに違う。サントリーはマスターブレンダーとチーフブレンダーを別の役職として置いている。公式サイトでは、鳥井信吾氏がマスターブレンダーで、福與伸二氏がそのもとでウイスキーづくりを統括するチーフブレンダーである。ニッカは公式に「チーフブレンダー」の呼称を用いている。

会社公式の呼称現職(2026年9月時点の公表)補足
サントリーマスターブレンダー鳥井信吾氏チーフブレンダーとは別の役職
サントリーチーフブレンダー福與伸二氏五代目。マスターブレンダーのもとでウイスキーづくりを統括する
ニッカウヰスキーチーフブレンダー井関潤治氏2025年就任。前任の尾崎裕美氏はシニアブレンダーとなった

ニッカでは交代にあたり、新旧のチーフブレンダーが共同開発した「ザ・ニッカ リミテッド」を2026年2月3日から数量限定で順次発売した。宮城峡・余市に加えて海外のベン・ネヴィス原酒を使う商品で、メーカーはこれを「ワールドブレンデッド」と説明している。「ジャパニーズウイスキー」とは表記されない。贈答品として案内するときは、この区別を添えると誤解を防げる。

肩書きより「最終決定権」を見る

判断の基準は呼称ではない。社内で最終的な配合を決める権限と責任が誰にあるかを見る。呼称と上下関係は会社によって異なり、「チーフ」と「マスター」の語感だけで序列を決めつけることはできない。サントリーでは両者は別の役職で、チーフブレンダーはマスターブレンダーのもとでウイスキーづくりを統括する。ボトルや商品案内でブレンダーの名前を見たら、その人の役職と担当範囲をメーカーの公式発表で確かめると、説明の精度が上がる。

外国人客や海外の知人には、肩書きを一律に言い換えないほうがよい。会社ごとの呼称と役割をそのまま伝えるのが確実である。英語では次のように言い換えられる。

  • 役職の説明:"Blender titles and ranks differ from company to company. At Suntory, the Master Blender and the Chief Blender are separate positions."
  • 人物の紹介:"He is Suntory's fifth Chief Blender, overseeing whisky making under the company's Master Blender."
  • 「マスターのほうが上か」と聞かれたとき:"It depends on the company. At Suntory, the Chief Blender works under the Master Blender. Elsewhere, check the company's own description of each role."

業界からの評価の例もある。ニッカの元チーフブレンダー佐久間正氏は、2026年のワールド・ウイスキー・アワードで「Hall of Fame」を受賞した。製品ではなくブレンダー個人の業績が顕彰の対象になった例として、職務の重さを説明する材料になる。

なぜ「同じ味」を出すために原酒を変え続けるのか:樽・熟成・在庫計画から見る仕事

ウイスキーのイメージ写真

同じ蒸溜所で同じ時期に蒸留し、同じ年に樽詰めした原酒でも、十数年後に樽を開けると香味はそろわない。ニューメイク(蒸留直後の原酒)が同じでも、熟成の条件が樽ごとに違うからだ。定番品の味を保つには、原酒は変わっていくものとして扱い、組み合わせを変え続ける必要がある。

樽ごとに香味が分かれる製法上の理由

  • 樽の履歴:ファーストフィル(前に別の酒を入れた樽を、スコッチの熟成に初めて使うこと)は、木の成分と前の中身の香りが強く出る。バーボンの使用済み樽やシェリーでシーズニングした樽でも、スコッチを初めて詰めるならファーストフィルと呼ぶ。リフィル(スコッチの熟成に再使用すること)は、回数を重ねるほど木の影響が弱まり、蒸溜所の酒質が前に出る。未使用の新樽は、前歴のない樽としてこれらとは区別する。同じバーボン樽でも、何回目の使用かで別の原酒になる。
  • シェリー樽の実態:長年シェリーを熟成させた古樽が大量に出回っているわけではない。主流はシーズニング樽で、ウイスキー用に組んだ樽へシェリーを一定期間入れて染み込ませたものだ。シェリーの種類や漬け込み期間、樽材によって、色や甘み、渋みが変わる。
  • チャーとトースト:どちらも熱で樽材の成分を変化させ、熟成中に樽から何がどれだけ溶け出すかを変える処理である。チャーは内側を炎で焦がして炭化層をつくる。トーストは弱い熱で長くあぶり、材の奥まで熱を通す。熱でリグニンが分解するとバニリンなどの香気成分が、ヘミセルロースが分解するとキャラメルや焼き菓子のような成分が生じるとされる。それが熟成中に原酒へ抽出される。チャーの炭化層には硫黄系などの成分を吸着する作用も考えられているが、特定の未熟香が必ず除かれるとは言えない。
  • 倉庫と置き場所:土間に低く積むダンネージ式の倉庫は、温度と湿度が安定しやすい。高層のラック式では上段ほど暑く、抽出が進み、目減りも大きくなる。
  • エンジェルズシェア(熟成中の目減り):減る量だけでなく、何が減るかも環境で変わる。湿潤な環境ではアルコールが多く抜けて度数が下がり、乾燥して暑い環境では水が多く抜けて度数が上がることがある。

選ぶだけでなく、10年後の原酒を仕込む

サントリーは、ブレンダーが原酒を試飲して熟成の状態を見極め、将来必要になる原酒について製造現場に指示を出すと公表している。スコッチウイスキー協会も、配合に加えて、樽と熟成年数の管理、品質評価、新製品開発を職務に挙げている。今年どの原酒をどの樽に詰めるかが、10年先、20年先の製品の在庫を決める。樽ごとに「まだ若い」「ピークに近い」を判断し、払い出しの時期を決めるのも同じ仕事に含まれる。

シングルモルトも、一樽だけの酒とは限らない。同じ蒸溜所のモルト原酒であれば、樽種や熟成年数の異なる複数の原酒を合わせて製品にでき、その配合を決めるのもブレンダーだ。一樽だけを瓶詰めした商品は、シングルカスクとして別に扱われる。

瓶詰め前の三つの判断

加水でどこまで度数を下げるかによって、香りの立ち方と口当たりが変わる。冷却濾過(低温で濁りの原因となる成分を取り除く処理)をすると、冷やしたときや加水したときの白濁を防げる。一方で、質感の一部も失われるという見方がある。着色について、スコッチウイスキー規則(SWR 2009)はカラメル色素(E150a)の使用を認めており、樽ごとに異なる色を製品としてそろえる手段になる。店頭で「ノンチル」「無着色」と説明してよいのは、メーカーが公表している場合に限られる。たとえば「ザ・ニッカ リミテッド」は、冷却濾過と着色の有無が公表されていない。

工程ごとのばらつきと、それを吸収する判断

工程生じるばらつきブレンダーの判断
樽詰め樽種・使用回数・焼き加減の違い将来の製品に必要な樽構成を決め、製造現場に指示する
熟成倉庫や段による温度差、目減りと度数の変化定期的に試飲し、樽ごとに払い出しの時期を決める
配合同じ樽種でも香味が一致しない似た役割の原酒に差し替え、比率を組み直す
瓶詰め度数・濁り・色加水後の香味を確かめ、冷却濾過や着色を含む瓶詰め仕様の検討に関わる。最終決定権は企業・製品ごとに異なる
品質評価ロット間の差基準の香味と並べて比べ、許容範囲内かを判定する

ロット差はなくせないから、基準と比べる

製品ごとに基準となる香味を決め、新しいロットの試作をそれと並べて比べる。ノージング(香り)、パレット(口中の味わい)、フィニッシュ(余韻)の各段階で基準から外れていないかを確かめ、外れていれば配合を組み直す。目標は完全に同じ味にすることではなく、差を許容範囲に収めることだ。

  • 定番品:ロット差は許容範囲の中で起きる。違いを感じたら、ボトルのロット表示と開栓後の日数を控えてから比べる。
  • シングルカスク・限定品:原酒の個性を出すための商品なので、ロットごとの差はむしろ前提になる。
  • 贈答品:「毎回同じ味」とは約束しない。「基準の味に合わせて造られている」と伝えるほうが正確だ。

マスターディスティラー・ブレンダー・チーフブレンダーの違いを比較

蒸留と配合は、同じウイスキーづくりでも判断する対象が違う。WSETの職業解説では、ディスティラーは蒸留による原酒づくりを担い、ブレンダーは異なる原酒を組み合わせた製品づくりを担うと整理されている。ただし両者を兼任する場合もある。おおまかな境界は、ニューメイク(蒸留直後の無色の原酒)を造るまでがディスティラー、樽の原酒を製品にまとめるまでがブレンダーと考えると分かりやすい。とはいえ、ブレンダーは原酒を試飲して熟成の状態を見極め、将来必要になる原酒について製造現場に指示を出す。そのため、両者の仕事は一方通行ではない。

ディスティラーが決める領域

  • 発酵時間:香味に影響する条件の一つである。酵母によるアルコール発酵が進んだ後も発酵槽に置く時間を長くとると、エステル(果実のような香りの成分)が増えやすいとされる。ただし香味は、酵母の種類、麦汁の清澄度、発酵温度、発酵槽の材質(木桶かステンレスか)などにも左右される。時間だけで方向が決まるわけではない
  • 蒸留器の運転:加熱の強さや速度によって、還流(蒸気が凝縮して釜に戻ること)の量と、蒸気が銅に触れる度合いが変わる。これは原酒の軽さや重さを左右する条件の一つになる。ニッカは、余市ではストレートヘッド型スチルで石炭直火蒸留を行い、宮城峡では上向きのラインアームを持つバルジ型スチルで蒸気蒸留を行うと公表している。設備の段階から造り分けている例といえる
  • ミドルカット:再留で得られる留液から、製品に使う中間部分を切り出すこと。どこで切り始め、どこで切り上げるかによって、華やかな成分と重い成分がどれだけ残るかが決まる

ブレンダーが決める領域

  • 樽選び:樽材や前歴、詰め替えの回数によって、同じ原酒でも熟成の進み方が変わる。ニッカは「ザ・ニッカ リミテッド」で、水楢新樽で熟成したモルト原酒を使ったと公表している
  • 熟成年数:どの熟成段階の原酒をどれだけ使うかを決める。長期熟成の原酒だけでは樽の香りが勝ちすぎることがあり、若い原酒が蒸溜所らしい香味を補う
  • 配合:シングルモルトも一樽だけの酒とは限らない。同じ蒸溜所の複数のモルト原酒を合わせて製品化できる
  • ボトリング仕様:加水後の香味を確かめ、度数、冷却濾過、着色といった瓶詰め仕様の検討に関わる。品質保証、製造、ブランドの担当なども関わりうるため、最終決定権は企業・製品ごとに確認する。前述の商品は度数48%と公表されているが、冷却濾過と着色の有無は公表情報では確認できない。説明するときは、公表済みの項目と未公表の項目を分けて伝える
役割担当工程主な判断成果物社内での位置づけ
マスターディスティラー糖化・発酵・蒸留発酵時間、蒸留器の運転、ミドルカットニューメイク蒸留による原酒づくりの責任者。ブレンダーを兼ねる例もある
ブレンダー原酒の評価・配合熟成の見極め、将来必要な原酒の指示配合案、品質評価ブレンダーチームの一員
マスターブレンダー樽の選定から製品化まで樽と熟成年数の管理、配合、品質評価、新製品開発製品の香味をロット間で保つこと原酒の選定・配合と製品の香味に責任を持つ。権限は会社ごとに異なる。サントリーの現職は鳥井信吾
チーフブレンダー会社ごとに異なる会社ごとに異なる。サントリーではウイスキーづくりの統括会社ごとに異なる呼称と上下関係は会社ごとに異なる。サントリーではマスターブレンダーのもとに置かれる別の役職で、現職は五代目の福與伸二。ニッカでは2025年に井関潤治が就任
シニアブレンダー評価・配合・開発会社ごとに異なる製品開発への関与ニッカでは前任チーフの尾崎裕美が就任。チーフより下の役職とは限らない

肩書きを職務範囲と読み違えないために

小規模蒸溜所では、一人が蒸留も樽選びも瓶詰め仕様も兼ねることが多い。ラベルやPRの肩書きは、その人が実際に担う範囲を示しているとは限らない。説明するときは、次の基準で判断する。

  • 大手の製品:チーフブレンダーやマスターブレンダーの権限は会社ごとに異なり、サントリーのように両職を別に置く会社もある。「◯◯氏が蒸留した」とは言わず、メーカーの説明に沿って「◯◯氏が香味設計を統括した」などと伝える
  • 小規模蒸溜所の製品:肩書きがディスティラーだけでも、樽や配合まで決めている可能性がある。メーカーの製法説明で担当工程を確かめてから紹介する
  • 外国人客への案内:肩書きを「最高の職人」のように意訳しない。公表されている呼称をそのまま使い、担当が蒸留か配合かを一言添える
  • 限定品・贈答品:「ザ・ニッカ リミテッド」は新旧のチーフブレンダーが共同開発した商品である。ベン・ネヴィスの原酒を含み、メーカーはワールドブレンデッドと説明しているので、「ジャパニーズウイスキー」とは紹介しない。ブレンダーの名前よりも、原酒の構成と表示区分を先に確認する

ブレンダーの自由度を決めるルール:SWR 2009とジャパニーズウイスキー表示基準

ウイスキーのイメージ写真

マスターブレンダーは、手元の原酒を自由に組み合わせられるわけではありません。原酒をどこで蒸留し、どの樽で、どこで何年熟成させたかによって、製品が名乗れる名前が決まります。スコッチでは英国の法令であるスコッチウイスキー規則(SWR 2009)が、ジャパニーズでは日本洋酒酒造組合が定める表示基準が、配合を組む前提になります。

SWR 2009とジャパニーズウイスキー表示基準の比較

項目スコッチウイスキー(SWR 2009)ジャパニーズウイスキー(日本洋酒酒造組合の表示基準)
位置づけ英国の法令業界団体の表示基準。2021年制定、経過措置が終わった2024年4月から本格運用
原材料水と大麦麦芽(ほかの穀物は全粒のみ加えられる)麦芽、穀類、日本国内で採水された水に限る。麦芽は必ず使用
製造の場所糖化・発酵・蒸留をスコットランド国内で行う糖化・発酵・蒸留をすべて日本国内で行う
樽容量700リットル以下のオーク樽容量700リットル以下の木製樽
熟成期間スコットランド国内で3年以上日本国内で3年以上貯蔵
瓶詰めの場所シングルモルトはスコットランド国内で瓶詰め日本国内で瓶詰め
瓶詰め時の度数40%以上40度以上

両基準とも、製造と熟成の産地を定めている点は共通です。SWRは糖化・発酵・蒸留をスコットランドで行い、熟成の全期間をスコットランド国内で過ごすことを求めます。日本の基準も、糖化・発酵・蒸留と3年以上の貯蔵を国内で行うことを求めます。700リットル・3年・40度という下限も同じです。実際に異なるのは次の点です。まず樽材で、SWRは「オーク」、日本の基準は「木製」と書いています。なお、ミズナラもナラ属、つまりオークの仲間です。次に瓶詰めの場所です。SWRが国内での瓶詰めを求めるのはシングルモルトなどに限られますが、日本の基準は国内での瓶詰めを要件にしています。さらに日本の基準は、日本国内で採水された水の使用を原材料の要件として明記しています。度数の「40度」は容量パーセントで、SWRの40%と同じ水準です。

海外原酒を配合すると「ジャパニーズ」とは名乗れない

日本の基準では、蒸留まで国内で行うことが求められます。そのため、海外で蒸留された原酒を一部でも使うと、その製品は「ジャパニーズウイスキー」と表記できません。ブレンダーにとって、これは単なる表示の問題ではありません。どの原酒を使うかを決めた時点で、商品の名乗り方も決まるということです。

たとえばニッカの「ザ・ニッカ リミテッド」には、次の原酒が使われています。

  • モルト原酒:余市(ストレートヘッド型スチルでの石炭直火蒸留)、宮城峡(上向きのラインアームを持つバルジ型スチルでの蒸気蒸留)、スコットランドのベン・ネヴィス
  • グレーン原酒:カフェグレーン、門司工場と、さつま司蒸溜蔵のグレーン

この商品は、海外で蒸留されたベン・ネヴィスのモルト原酒を含みます。そのためニッカはこの商品を「ワールドブレンデッド」と説明し、「ジャパニーズウイスキー」とは表記していません。狙った香味のために海外原酒を使うか、ジャパニーズの表記を守るか。ブレンダーは配合の段階でこの選択をしています。

「ワールドブレンデッド」の意味とラベルで確認する箇所

「ワールドブレンデッド」は、SWRや日本洋酒酒造組合の表示基準が定める表示区分ではありません。「ザ・ニッカ リミテッド」については、メーカー自身が複数の国の原酒を組み合わせたワールドブレンデッドと説明しています。ただし、この表記だけで原酒の国数や産地を一律に判定することはできません。店頭では次の順に確認します。

  1. 表ラベルや首掛けに「JAPANESE WHISKY」または「ジャパニーズウイスキー」とあるかを見る。ラベルの語だけに頼らず、メーカーが表示基準への適合を公表しているかも確かめる。
  2. 「WORLD BLENDED」「ワールドブレンデッド」などの表記があれば、メーカーが公表している原酒の産地を確かめる。表記だけで産地を決めつけない。
  3. どちらの表記もなく「BLENDED WHISKY」などとだけある場合も、メーカーの商品案内で原酒の産地を確かめる。
  4. 裏ラベルの原材料名(モルト、グレーン)は、原酒の産地を示さない。製造者の所在地が国内でも、国内で瓶詰めされたことが分かるだけなので、これだけで判断しない。

外国人客への案内・海外への贈答での判断基準

海外の客や贈答の相手は、「Japanese whisky」という言葉に「日本で蒸留された酒」を期待していることが多くあります。数量限定や高価格帯の商品であっても、それだけでジャパニーズである保証にはなりません。判断は表記の確認で行います。

  • 「日本で造られたウイスキー」を求められた場合:「JAPANESE WHISKY」の表記を確認できた商品だけを勧める。
  • ブレンダーの技を味わいたい相手の場合:ワールドブレンデッドも候補になる。勧める前に「Blended in Japan, with whiskies from Japan and other countries」のように原酒の構成を伝える。
  • 贈り先の期待が分からない場合:ジャパニーズ表記の商品を選ぶ。ワールドブレンデッドを贈るときは、原酒の産地をメッセージカードに書き添えると誤解を防げる。

事例で読む:新旧チーフブレンダーが共同開発した「ザ・ニッカ リミテッド」

「ザ・ニッカ リミテッド」は、2025年にチーフブレンダーに就任した井関潤治と、前任でシニアブレンダーとなった尾崎裕美の新旧チーフブレンダーが共同で開発した数量限定品です。メーカーは原酒の構成と、その原酒を造る蒸溜所の製法を公表しています。そのため、ブレンダーがどのような骨格を設計したのかを、公表情報の範囲で具体的に読み解けます。

基本情報:発売日・価格・表記区分

発売は2026年2月3日から数量限定の順次発売です。以前に告知された2025年11月5日は延期前の日付で、実際の発売日ではありません。旧告知をもとに作られた商品説明やPOPが残っていれば、日付を直してください。

項目内容
発売日2026年2月3日から数量限定で順次発売(旧告知の2025年11月5日は延期前の日付)
アルコール度数48%
容量700ml
参考小売価格国内参考小売価格 税込16万5,000円
使用原酒モルト:宮城峡・余市・ベン・ネヴィス/グレーン:カフェグレーン、門司工場・さつま司蒸溜蔵のグレーン(配合比は非公表)
表記区分メーカーはワールドブレンデッドと説明(「ジャパニーズウイスキー」とは表記しない)

税込16万5,000円は参考小売価格です。現在の店頭価格や在庫の有無を示すものではありません。贈答用に選ぶ場合は、購入する時点で販売店の実売価格と在庫を確認し、そのうえで判断してください。

使用原酒と「ワールドブレンデッド」という区分

モルト原酒には、国内の余市・宮城峡に加えて、スコットランドのベン・ネヴィスが使われています。ジャパニーズウイスキーの表示基準は、糖化・発酵・蒸留を国内で行うことを求めています。この商品は国外で蒸留された原酒を含むため基準を満たさず、ニッカはワールドブレンデッドと説明しています。説明する場面ごとの伝え方は次のとおりです。

  • 店頭・カウンターで説明するとき:「ニッカのブレンダーが日本とスコットランドのモルトに、カフェグレーンなどのグレーンを合わせたワールドブレンデッド」と伝えます。「ジャパニーズウイスキー」とは紹介しません。
  • 外国人客や海外の知人に案内するとき:英語でも "Japanese whisky" とは呼びません。"a world blended whisky by Nikka" と区分を示し、原酒の出どころを添えます。
  • 贈答品として選ぶとき:相手が「ジャパニーズウイスキー表示のもの」を指定しているなら、条件には合いません。ブレンダーの仕事や原酒の組み合わせそのものに価値を感じる相手に向く一本です。

製法から読む香味の骨格

蒸留では、上昇した蒸気の一部が釜の首やラインアーム(蒸気を冷却器へ送る管)で凝縮し、釜へ戻ります。これを還流といいます。還流が多いと、重く沸点の高い成分が釜に戻りやすくなり、銅に触れる時間も長くなります。その結果、軽やかで澄んだ酒質に寄りやすくなります。還流が少ないと、重い成分が留出液に残りやすく、油分を感じる厚みのある酒質に寄りやすくなります。

余市蒸溜所は、ストレートヘッド型のスチルで石炭直火蒸留を行うと公表しています。首にくびれや膨らみのない形状と、釜底を高温で加熱する直火の組み合わせは、一般に重厚な方向に働く条件とされます。宮城峡蒸溜所は、膨らみ(バルジ)を持ち、ラインアームが上向きのスチルで蒸気蒸留を行うと公表しています。こちらは還流を増やす方向の設計です。ただし、スチルの形状と加熱方式は酒質に影響する条件の一つにすぎません。実際の酒質は、加熱の強さや速度といった運転条件、ミドルカットの取り方でも変わります。設備の違いから「ザ・ニッカ リミテッド」の味を断定することはできません。香味を説明するときは、メーカーが公表した官能評価と、製法からの推論を分けて伝えてください。

設計上の特徴として公表されているのは、程よくピートの効いた余市モルトと、水楢新樽で熟成したモルト原酒の使用です。ピート由来のスモーキーさは、麦芽を乾燥させる工程で焚く泥炭の煙からフェノール類が麦芽に移ることで生まれます。新樽は樽材成分の抽出が強い樽です。そのため、どれだけ配合するかで全体の香味が大きく変わります。

公表されていない項目

次の項目は確認できていません。推測で補わず、「非公表」として扱ってください。

  • モルト原酒とグレーン原酒の配合比:各原酒がどれだけ効いているかは断定できません。
  • ピートの数値(フェノール値ppm):「程よく」以上の強さは言えません。
  • 使用スチルの台数
  • 冷却濾過・着色の有無:「ノンチルフィルタード」「ノンカラー」とは案内しないでください。

ブレンダーの意図を味わう・伝えるための実践ガイド

ウイスキーのイメージ写真

準備:グラス・量・度数をそろえる

香りを確かめるなら、チューリップ型のテイスティンググラスを使う。膨らんだボウルの中で液面から香りが立ちのぼり、すぼまった口がそれを鼻先に集める。口の広いロックグラスでは香りが散りやすく、弱い香りを拾いにくい。

量は1杯15〜20mlとし、比べるグラスはすべて量と温度をそろえる。度数も合わせておくと、アルコールの刺激の差を香味の差と取り違えにくい。たとえば度数48%の「ザ・ニッカ リミテッド」20mlを40%にそろえるなら、足す水は4mlになる。

加水は数滴ずつ

まずストレートで香りをとる。次にスポイトで2〜3滴ずつ水を足し、そのつど香りを確かめる。度数が下がるとアルコールの刺激が弱まり、嗅覚がほかの香りを拾いやすくなる。さらにエタノール濃度が下がると、水になじみにくい香気成分が液面近くに集まり、揮発しやすくなるとされる。香りが開いたと感じた時点で加水を止める。

ノージング→パレット→フィニッシュの順に言葉を当てる

  • ノージング(香りをとる):軽い香りから順に拾う。拾った香りは、燻煙なら麦芽を乾燥させるときのピート、バニラなら樽というように、生まれた工程に結びつけて書き留める
  • パレット(口に含んだときの味わい):甘み・酸味・苦みのほか、舌ざわりの厚みをみる
  • フィニッシュ(飲み込んだ後の余韻):余韻の長さと、最後に残る香りを記録する

ブレンダーの仕事が見える飲み比べ

  • 同じ銘柄の年数違い:熟成が長いほど樽香は増すが、長いほど良いとは限らない。原酒の個性と樽香の釣り合いを、どの年数で取っているかを見る
  • 同じ銘柄のボトリング違い:原酒の構成が変わっても、香味の軸がそろっているかを見る
  • キーモルト(ブレンドの核になるモルト原酒)とブレンデッド:余市のシングルモルトと「ザ・ニッカ リミテッド」を並べる。余市のピートがどこまで残され、何と合わされたかが分かる

銘柄ごとの飲み方は、銘柄別の飲み方記事で詳しく扱う。

店頭・接客で添える一言

限定品の価値を伝えるには、「誰がブレンドしたか」より「どの原酒をどんな意図で合わせたか」を一言で添えるとよい。たとえば「ザ・ニッカ リミテッド」なら、次のように案内できる。「宮城峡・余市・ベン・ネヴィスのモルトに、カフェグレーンと、門司工場・さつま司蒸溜蔵のグレーンを合わせた、メーカーがワールドブレンデッドと説明する一本です。ほどよくピートの効いた余市と、水楢新樽で熟成したモルトを効かせています」。

日本語英語での言い換え補足
チーフブレンダーchief blender呼称と権限、上下関係は会社ごとに異なる。サントリーではマスターブレンダーのもとでウイスキーづくりを統括する役職
マスターブレンダーmaster blender原酒の選定・配合と製品の香味に責任を持つ役割
ワールドブレンデッドworld blended whisky法定の表示区分ではない。「ザ・ニッカ リミテッド」はメーカーがこう説明している。Japanese whiskyとは案内しない
ジャパニーズウイスキーJapanese whisky日本洋酒酒造組合の表示基準を満たすもの

よくある質問

マスターブレンダーになるには何が必要か 公表されている職務は、ブレンドの配合、樽と熟成年数の管理、品質評価、新製品の開発である。そのため、原酒を試飲して熟成の状態を見極める官能評価の力が要る。あわせて、将来必要な原酒を製造現場に指示できる、製造と在庫計画の知識も求められる。

シングルモルトにもブレンダーは関わるのか 関わる。シングルモルトは一樽だけの酒とは限らず、同じ蒸溜所の複数の原酒を合わせて製品にする。その配合を決めるのがブレンダーである。

ブレンダーが代わると味は変わるのか 定番品では、求められる香味を保ち続けることがブレンダーの職務の中心にある。味の変化を感じたら、交代そのものよりロットごとの原酒構成の違いを疑う。同じ銘柄のボトリング違いを並べれば確かめられる。

海外の知人に贈るならどの表記を確認すべきか ラベルの「ジャパニーズウイスキー」表記を見たうえで、メーカーが表示基準への適合や原酒の産地を公表しているかを確認する。日本洋酒酒造組合の表示基準は2024年4月から本格運用されている。この基準では、次の条件がすべて求められる。原材料は麦芽を必ず使い、日本国内で採水された水を使うこと。糖化・発酵・蒸留を国内で行うこと。700リットル以下の木製樽で国内3年以上貯蔵すること。国内で瓶詰めし、度数を40度以上にすること。持ち込みや発送の条件は、相手国の規則を別に確認する。

限定品の参考小売価格と実売価格はどう違うのか 参考小売価格はメーカーが示す目安で、店頭価格は各店が決める。「ザ・ニッカ リミテッド」の国内参考小売価格は700mlで税込16万5,000円だが、この金額は現在の店頭価格や在庫を示すものではない。実売価格の目安は。

よくある質問

マスターブレンダーとは何をする人ですか?

マスターブレンダーとは、蒸溜所や酒造メーカーで複数の原酒を組み合わせ、製品の香味や品質を最終決定する責任者です。原酒の熟成状態を見極め、目指す味わいに近づけるための配合比率を決定し、ブランドの個性や品質を一貫して守る役割を担います。長年の経験と鋭敏な嗅覚・味覚が求められる専門職です。

マスターブレンダーとマスターディスティラーの違いは何ですか?

マスターディスティラーは蒸溜工程そのものを統括し、原酒を生み出す製造責任者です。一方マスターブレンダーは、できあがった原酒を選び組み合わせて最終製品に仕上げる役割を担います。蒸溜所によっては両方を兼任する場合もありますが、一般的には製造と仕上げで役割が分かれています。

マスターブレンダーになるにはどんな経歴が必要ですか?

決まった資格はありませんが、多くの場合、蒸溜所での品質管理や熟成庫での実務経験を長年積み、原酒の香味を判断する感覚を磨いた人が任命されます。化学や醸造学の知識に加え、テイスティング能力とブランドの方向性を理解する力が重視され、先代からの技術継承も重要な要素です。

有名なマスターブレンダーには誰がいますか?

日本ではサントリーやニッカウヰスキーに歴代のマスターブレンダーが在籍し、ブランドの味わいを牽引してきました。海外ではスコッチウイスキー業界にも著名な人物が多く存在します。各社の公式情報やインタビュー記事で、担当者の経歴や哲学を確認できます。

この記事で紹介した銘柄

20歳未満の飲酒は法律で禁止されています。 妊娠中・授乳期の飲酒は、胎児・乳児の発育に影響するおそれがあります。 お酒は適量を楽しみ、飲酒運転は絶対におやめください。